被災地オルソ航空写真からのモザイク データセット作成

データの前処理

国土地理院は、2011 年 3 月 11 日の東日本大震災の翌日から被災地の航空写真撮影を行い、オルソモザイク、図郭で分割した画像を、ワールド ファイル付きの JPEG ファイルの状態で同院 Web サイトから公開しました。この写真データは重要な GIS データとして今なお様々な場面で利用されています。

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震による被災地の空中写真

ESRIジャパンは、この航空写真データを、GIS を利用する省庁や地元自治体、ボランティア団体等が容易に活用できるようにシームレスな形で ArcGIS Server を利用してインターネット配信するという作業を行いました。その配信データのソースを作るにあたって活用されたのがモザイク データセットです。
モザイク データセットは ArcGIS 10 からの新しい画像管理形態ですので、当時はまだ私たちとしてもあまり使用経験がなく、手探りの状態でそのような作業を行うことになりましたが、その中で実作業でしか得られないような有用な知見も多々得ることができました。ここではそのような経験を踏まえた現時点でのベストプラクティス的手順を紹介したいと思います。

■データの前処理
1. 上記サイトからダウンロードできるデータは、画像ファイル(.jpg)と座標を与えるためのワールド ファイル(.jgw)です。写真は撮影時期や地域ごとにまとめて公開されていますので、その単位で一つのフォルダに格納し、モザイク データセットを作成することにします。ワールド ファイルは同じルート名の画像ファイルに対して平面直角座標(公共測量座標)の座標を定義しますので、同じフォルダに置いておくだけです。

データの前処理

2. ワールド ファイルで付与されている座標値がどの座標系のものであるかを明確にするために、「投影法の定義」を行う必要があります。ArcGIS Desktop では、ArcToolbox の [データ管理ツール] → [投影変換と座標変換] → [投影法の定義] ツールを使用します。ここでは大量にファイルがありますので、ツール名を右クリック → [バッチ…] を選択してバッチ モードで起動し、以下のようにパラメータを定義して実行します。

[投影法の定義] ツール

これで個々の画像ファイルに座標と投影法が定義され、GIS で利用できる状態になります。投影法の情報は、*.jpg.aux.xml ファイルに格納されています。

■モザイク データセットの作成
1. カタログ ウィンドウで、ファイル ジオデータベースを 1 つ作成しておき、その中で右クリック → [新規作成] → [モザイク データセット] を選択します。以下のようなダイアログが起動しますので、モザイク データセット名を指定し、座標系を選択して [OK] ボタンを押します。

モザイク データセットの作成
モザイク データセットやそれから作成する ArcGIS Server のサービスを Bing Maps 等 ArcGIS Online の背景データと重ね合わせる場合は、これらのデータと同じ [WGS_1984_Web_Mercator_Auxiliary_Sphere] にしておくと、表示パフォーマンスの向上につながります。その他のパラメータはデフォルトです。

■モザイク データセットにラスタを追加
1. カタログ ウィンドウ上のモザイク データセット名を右クリック → [ラスタの追加…] を選択します。
入力データとして [Workspace] を選択して、画像ファイルが含まれるフォルダを選択します。また、 [オーバービュー(概観図)の更新] にチェックを入れます。設定ができたら [OK] ボタンを押して処理を実行します。

モザイク データセットにラスタを追加

このようなデータの場合、通常はここで作業は完了です。しかし、この航空写真データでは、画像の背景の黒い部分に JPEG 圧縮によるかすかな色ムラがあり、また、画像内の濃い影の部分などにピクセル値 0 が含まれているという問題がありました。このようなデータを単純にイメージ レイヤのレイヤ プロパティ → [シンボル] タブで [背景値] を 0 として透過しようとすると、以下のように画像のヘリに近い部分がまだらに残ってしまったり、余計な透過箇所が生じたりしてしまいます。このような場合、背景値指定による透過は使うべきではなく、境界線レイヤの編集により切り落とすのがベターです。

背景の透過

■境界線レイヤの編集
境界線レイヤはモザイク データセット全体の輪郭を定義するポリゴンですので、これを編集することにより、余計な背景部分をなくすことができます。

1. ArcMap にモザイク データセットを追加し、境界線レイヤのチェックを入れ、フットプリントはチェックを外します(つまりイメージ レイヤと境界線レイヤだけの表示にします)。

2. エディタ ツールバーを起動して編集を開始し、境界線の内部をクリックして選択状態にします。

3. [フィーチャの形状変更] ツールを使用して境界線を編集します。画像のヘリ(の少し内側)に沿って少しずつ境界線を切り落とすようにして編集していくと良いでしょう。

境界線レイヤの編集

4. 画像の周囲をすべて編集し終えたら編集を保存、終了します。ArcMap から一度モザイク データセットを削除して再度追加すると、新しい境界線が適用された状態で表示されます。

モザイク データセットの完成

これでモザイク データセットは完成です。

私たちが作成したこのようなモザイク データセット(厳密には少し手順が異なりますが)を元に作成されたキャッシュ マップ サービスが、EMT グループの GIS コンテンツとして、ArcGIS.com に登録・公開されています。ArcGIS.com サイトの、「GALLERY」で「国土地理院」で検索すれば以下のような感じで出てきます。

EMT グループの GIS コンテンツ

また ArcGIS Online は ArcGIS Desktop 等からも利用できます。

ArcGIS Online からの利用

フォローする