ArcGIS Stat Suite 道路交通履歴統計でみる東京湾アクアラインの通行量の実態と拡大推計への試み

ArcGIS GeoSuite 道路交通履歴統計2023年 1月~ 3月集計をリリース!

ESRIジャパンでは、2020 年 7 月より、カープローブデータ(データソース:トヨタ自動車株式会社のコネクティッドカー)のArcGIS での活用に取り組んでいます。

交通状況を季節ごと(3か月間)の統計情報として集計したArcGIS Stat Suite 道路交通履歴統計では、平日・休日別かつ時間帯別の通行量や平均車速を情報として持ち、各道路の交通状況を把握することができます。

例えば、時間帯によって混雑しやすい道路やエリア間での通行量の比較など、時間と場所を使った比較をすることによって、みなさんが漠然とイメージしていることを明確な事象として示すことができます。

下記の画像は神奈川県と千葉県を結ぶ東京湾アクアラインの千葉県木更津市側です。流入流出の分かりやすいこの場所で、ArcGIS Stat Suite 道路交通履歴統計の平均車速を時間帯別に見てみます。

(アクアライン(木更津側)の平日午前の平均車速。画像の西側は東京湾を隔てて川崎市・横浜市)

画像の左(西側)が東京湾でその先は神奈川県です。
川崎・横浜から木更津方向のアクアラインの平均車速を比べてみると、平日午前(青:81km/h以上)と比べ、休日午前(水色:61~80km/h)の車速はやや遅くなっています。これは休日のドライバーの方がスピードを出さない…というわけではないでしょう。

休日午前の様子に引き続き休日午後の様子も見てみるとその理由がわかるかもしれません。

(アクアライン(木更津側)の休日午前の平均車速。平日よりやや遅くなっている)

川崎・横浜方面へ向かう道路では速度が明らかに遅くなっていて(緑:41~60km/h)、道路の混雑状況を窺わせます。こうした時間帯別の平均車速の様子から、川崎・横浜方面から休日午前にゆるやかに流入してきた車両が、午後に帰宅していく様子が表れているものと捉えることができます。

(アクアライン(木更津側)の休日午後の平均車速。川崎・横浜方面(路線左)への速度が明らかに遅くなり、混雑状況を窺わせる)

こうした変化の検出はArcGIS Online にアップロードし、ArcGIS Dashboards を活用することで可視化しやすくなります。川崎・横浜方面に向かう路線の速度変移をグラフにしてみました。上記で見てきた休日午後の混雑状況が一目瞭然です。

では通行量の変化は一体どのくらいなのか、道路交通履歴統計の通行量を使って川崎・横浜への交通量と木更津への交通量を時間帯別に比較してみます。

ArcGIS Stat Suite 道路交通履歴統計の通行量は、3か月間のコネクティッドカーの集計値であり、平日と休日で集計している日数が異なります。そのため、比較にあたって、1日当たりの平均通行量(平日:65日間、休日:25日間)を求めて通行量をグラフにしてみました。

( ArcGIS Experience Builder を使用し、平日午前~休日深夜の通行量をグラフ化)

まずは川崎・横浜から木更津への通行量(マップ内の選択フィーチャー)を見てみると、休日午前が顕著に多いことがわかります。平日、休日ともに午前中から深夜帯に向けて徐々に交通量が減っていく傾向にあります。

一方の木更津から川崎・横浜への通行量は、平日、休日ともに午前より午後が多くなっています。両者を総合すると、午前中に木更津側に移動して午後に川崎・横浜方面へ移動する動きが見えます。この動きは休日の方が平日より顕著です。

(上下線ともに休日午前の通行量は平日午前の1.7倍だった。休日午後の通行量は、木更津への通行量は平日午前と同程度だが、川崎・横浜方面への通行量は平日午前のおよそ2.5倍になる。)

道路交通履歴統計は時間帯や平日・休日別など多くの指標を持つデータですが、こうしたマップとチャートによるデータビューによって交通状況の把握が容易になります。道路交通履歴統計だけでなく、たくさんの指標を持つ統計データはこうした機能を利用することで、情報を余すことなく活用できます。

しかし、道路交通履歴統計は あくまでも トヨタ自動車のコネクティッドカー をデータソースとしたデータです。やはり絶対量としての交通量も把握したい(※)というニーズのため、ArcGIS Stat Suite 道路交通履歴統計を使って全車両分の交通量を推計できないか、検討をしてみました。

※一つは交通センサス(PAREA-Trafficなど)を利用することが考えられますが、2023年6月時点の最新の交通センサスは平成27年度(2015 年度)ものとなります。

まず、オープンデータとして公開されている断面交通量情報(JARTIC 提供)(各都道府県警察が車両感知器などの計測機器で全国およそ 40,000 地点の断面交通量を収集)とコネクティッドカーの通行量を比較してみました。一例をお見せします。

ある地点の1日の断面交通量(黒の矢印)の画像です。断面交通量をおおむね全体の交通量と推定すると、それに対応する道路交通履歴統計の通行量との比率を出すことによって、道路交通履歴統計の通行量を何倍すれば全体の交通量となるか計算することができます。具体的な方法は次の通りです。

断面交通量の計測地点ごとに、1日の断面交通量(画像中央上 25,296 台) と道路交通履歴統計の通行量を比較します。同じように反対車線(画面中央下 17,836 台) に対しても道路交通履歴統計の通行量を比較します。
こうした比較を全国およそ40,000地点で行いました。その結果を道路種別ごと、地域特性のグループごとにまとめ、それぞれの道路に適用する係数(倍率)を算出することで、断面交通量の計測が行われていない地点に係数を当てはめ、全車両分の交通量を推計できるようになります。

先ほどの地点の国道周辺について、道路種別ごと、地域特性のグループごとに求めた係数を適用すると1日の交通量は次の画像のようになりました(緑のラベルが求めた全車分の推計交通量)。

断面交通量 25,296 台の道路に対する推計交通量は 22,586 台、断面交通量 17,836 台の道路に対する推計交通量は 18,717 台となりました。このような形で断面交通量のない箇所でも全国で推計した交通量を利用することができます。

今回求めた方法にて道路交通履歴統計に推計交通量の加工を行い、ご提供することも可能ですのでご興味のある方はお問合せいただければ幸いです。

全体的な評価としては、国道などの交通量の多いところは多くの地域で断面交通量に近い値を求めることができますが、交通量の少ない地方部や市道、一般道では精度が下がってきます。

こうした箇所の特徴として、道路交通履歴統計の通行量が極端に少ない箇所であることや、オープンデータとして公開されている断面交通量には市道、一般道の計測地点が少ないことが挙げられます。

地方部や一部の一般道の道路交通履歴統計の通行量を見ると、通行量が1日1台以下の道路もあります。こうした道路にも通行量の多い道路と同じように係数を適用することは難しく、一定以下の通行量の道路は評価の対象外とした方がよさそうです。

現在道路交通履歴統計では全国分の提供を行っていますが、地方版の取り扱いも開始しました。地方版を利用して、地方ごとに推計交通量を求めることで精度の向上も期待できます。

道路交通履歴統計や推計交通量のデータはサンプルの提供も行っておりますのでお気軽にお問い合わせ下さい。

関連リンク

ArcGIS Stat Suite:道路交通履歴統計 – GISデータストア (gisdata-store.biz)

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