オープンデータの現状と ArcGIS での対応について

GIS に携わったことがある方なら一度は「オープンデータ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。なぜなら GIS にとってデータは欠かせないものであるからです。

GIS で扱うデータには、企業が有償で販売しているデータや、国が無償で提供しているデータなど、さまざまな提供形態のデータがあります。これらのうち、どのようなデータをオープンデータと呼ぶのでしょうか?

GIS にとってデータは欠かせないもの

本ブログではオープンデータと ArcGIS での対応についてより深く知るために 6 回にわたって記事を掲載していきます。今回はその第 1 回目です。

無償で提供されているデータはすべてオープンデータ?

オープンデータの「オープン」という言葉は「開かれた」という意味なので、広く公開されたデータ、すなわち無償データというように捉えがちですが、厳密にいうとそうではありません。無償データであっても二次利用 (加工して再利用すること) が禁止されている場合があり、それだとオープンであるとはいえません。

政府によるオープンデータ基本指針1 によると、オープンデータの定義は以下のように定められています。

国、地方公共団体及び事業者が保有する官民データのうち、国民誰もがインターネット等を通じて容易に利用 (加工、編集、再配布等) できるよう、次のいずれの項目にも該当する形で公開されたデータ

①営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能なルールが適用されたもの
②機械判読に適したもの
③無償で利用できるもの

①の「二次利用可能なルール」とは、出典を明記すれば著作元に許可を得ずとも自由に利用 (編集・加工を含む) が可能であることを指します。もしこのルールが適用されていないと著作元に許可を得るために時間が掛かったり、自由に加工ができずに制約を受けたりするなど、不都合が生じるためオープンデータの定義から外れてしまいます。

出典を明記すれば著作元に許可を得ずとも自由に利用 (編集・加工を含む) が可能

②の「機械判読に適したもの」とは、コンピューターで処理がしやすいように公開形式を統一化したり、住所等の記述方式を標準化したりすることを指します。いくらデータが公開されていたとしてもスキャンされた画像だったり、PDF に埋め込まれていたりすると、データを再利用するために手入力をする必要が出てきます。また市区町村ごとにデータ フォーマットがバラバラであるとそれらを一括で利用したいといった場合にデータ形式を統一するために加工しなければなりません。これらのケースは機械判読に適しているとはいえず、政府の定義するオープンデータからは外れてしまいます。

コンピューターで処理がしやすいように公開形式を統一化したり、住所等の記述方式を標準化したりすること

二次利用が可能で、機械判読に適しており、無償で提供される、といった 3 つの条件を正しく理解し、公開してはじめてオープンデータと呼べるのです。

オープンデータに取り組む自治体はまだまだ少ない…

ところでオープンデータに取り組んでいる自治体はどのぐらいあると思いますか?

政府の資料2 によると、すべての都道府県 (47 都道府県) がオープンデータの取り組みを行っている一方で、市区町村レベルになると約 300 団体、すなわち全体の 17% しかオープンデータに取り組んでいないとのことです。関係者に話を伺ったところによると、各市区町村が保有するオープンデータを都道府県に集約しているケースがあり、その場合は各市区町村の Web サイトでオープンデータに対する説明を記載し、データの公開先を示していれば取組済ということになるそうです。したがって実際にはもう少し取組済の市区町村は多くなるはずですが、それにしてもオープンデータに取り組む自治体はまだまだ少ないです。

政府は平成 32 年度までにオープンデータ取組率 100% を目標3 に掲げており、普及活動を進めていますが、なかなか進まないのが現状のようです。

オープンデータ取組済自治体一覧 (平成30年4月30日時点)
※地図を拡大し、クリックすると詳細が見られます

なぜ取り組みが進まないのか

それではなぜオープンデータの公開が進まないのでしょうか。これも政府が以前実施した自治体アンケート結果4 ですが、オープンデータに対する課題として挙げられたトップ 3 は以下の通りでした。

1 位: オープンデータの効果、メリット、ニーズが不明確

2 位: 担当する人的リソースがない

3 位: どう取り組んで良いかわからない

オープンデータを公開するにはそれなりの事前準備 (データの準備、公開サイトの構築など) や公開したデータの定期的な更新作業が必要ですが、それに見合うだけの費用対効果があるのかわからないと取り組みに躊躇するのは当然でしょう。また公開したオープンデータで地域課題が解決できるのか、住民が本当に必要としているデータは何なのか、オープンデータへの取り組みを始めるにはこれらの課題を明確にしておくことが重要です。

位置情報付きオープンデータを公開するメリット

GIS に関連するオープンデータの中には住所や緯度経度といった位置情報が大抵含まれています。こういった位置情報付きのオープンデータがテキスト (Excel や CSV) 形式のみで公開されているのを見かけることがあります。表形式の優れている点は一覧で網羅的に見ることができる点ですが、たとえば「自分の家の近所にある医療施設はどこ?」といった問いにすぐに答えることができません。これを地図上に展開するだけで、「どこ」に「何」があるのかが一目瞭然になります。また単に位置を表すだけでなくシンボルの色を変えることによって、たとえば医療施設の診療科目が一目でわかるので、いざというときにすぐに最寄りの病院を見つけることができます。

このように位置情報付きのオープンデータは地図上にすばやく展開できる形式で公開するとより活用が広がります。最近はシェープファイル形式で公開している自治体も多くなってきています。

位置情報付きのオープンデータは地図上にすばやく展開できる

今いる場所から半径 300m 以内の医療機関を検索
※このデータは以下の著作物を改変して利用しています。「公的医療機関一覧(防災・安全安心情報)」「AED 設置施設一覧 (防災・安全安心情報) 」、宇都宮市、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示2.1 https://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/

位置情報付きオープンデータを素早く公開するには?

では、位置情報付きオープンデータを素早く公開するにはどのようにすればよいでしょうか。クラウド GIS である ArcGIS Online にはオープンデータサイト構築キット「ArcGIS Open Data」が用意されています。ArcGIS Open Data を使用した公開サイトは、データの検索、地図上での表示、一覧表の閲覧、ある属性の分布状況のグラフ化、別のデータ フォーマットへの変換機能などを兼ね備えており、オープンデータ公開サイトを準備するために HTML や JavaScript などのプログラミングを行う必要もありません。あらかじめ用意されている機能の部品を配置し、簡単な設定を行うだけでサイトを構築することができます。この手軽さは実際に体験していただきたいのですが、今後、本ブログでも公開までの操作感を紹介していきます。

ArcGIS Open Data を用いたオープンデータ公開

ArcGIS Open Data を用いたオープンデータ公開

次回は ArcGIS Open Data を実際に活用してサイトを公開している事例をご紹介します。

 

脚注:
1.「IT本部・官民データ活用推進戦略会議」にて決定 (平成29年5月30日)
2.「オープンデータ取組済自治体資料」(平成30年4月30日時点、政府CIOポータル)
3.「世界最先端 IT 国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(平成29年5月30日、閣議決定)
4.「オープンデータの取組に関する自治体アンケート結果」(平成28年12月実施、政府CIOポータル)

 

■関連リンク
・GIS 基礎解説: オープンデータ
・業種別ページ: 情報公開 GIS ソリューション
・製品ページ: ArcGIS Online

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