【WhereNext】AIブームを支えるロケーションサイエンス

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AIブームを支えるデータセンターの建設用地を確保するため、テック企業や不動産開発会社は激しい競争を繰り広げています。日々、企業や個人がAIプラットフォームに膨大なプロンプトを入力し、その指示はデータセンターに送信され、高度なGPUがリアルタイムでAIモデルの応答や分析を可能にしています。

これには、ハイパースケーラーと呼ばれるグローバルに膨大な数のサーバーやデータセンターを持ちクラウドサービスをグローバルに提供できる企業や、データセンター専門企業、不動産開発会社が関わっており、データセンターを建設するための土地を探す際、彼らは地理情報システム(GIS)ソフトウェアとして知られるエンタープライズ・テクノロジーに注目しています。

データセンターは特殊な要件を持ちます。サーバーの維持に大量の電力と冷却用の水が必要であり、光ファイバーネットワーク、基幹インフラ、熟練労働者へのアクセスも不可欠です。加えて、都市計画法や環境基準にも適合しなければなりません。こうした施設は、ワシントンDC近郊、ネバダ州の砂漠、オレゴン州の小都市などさまざまな場所に見られます。

データセンターの建設ペースは一部で鈍化が指摘されていますが、需要は依然として堅調です。2025年上半期の生成AI投資額は2024年通年を上回るペースです。

不動産企業CBREによれば、北米のデータセンター空室率はわずか2.8%となっており、用地をめぐる競争の激しさがうかがえます。迅速に候補地を調査・評価・計画できる企業が優位に立っています。

エンジニアリング・環境サービスを提供するLangan社のデータセンター・チームは、GIS技術で構築されたツールを使って、クライアントが一等地を見つけ、プロトタイプ施設をより早く建設できるよう支援し、競合他社を出し抜いています。「私たちは、これを競争力を持つこと、そしてこの分野で欠けているツールをクライアントに提供することだと考えています」と同社の上級職David氏は言います。

GIS:データセンター用地選定を支える技術

データセンターの用地選定においては、ハイパースケーラーやその他の大企業は、自社のスタッフを用地選定に専任させたり、AEC企業や企業向け不動産会社に助言を求めたり、あるいはその両方を組み合わせたりすることがあります。どのような方法を取るにせよ、GISは共通の基盤として活用されることが多く、土地の価値を評価したり、建設プロセスのシナリオを計画したりするのに役立っています。

ロケーションソフトウェアは、数千もの候補地の中から、クライアントの要件を満たす物件を絞り込み、順位付けされたショートリストを作成することができます。

Langan社では、GISツールの導入により、この分析にかかる時間が数時間からわずか3〜4分に短縮されたと、デイビッド氏は述べています。GISは、売買市場に出ていない物件の発見や、入札競争の回避にも活用されています。

これらのアプリケーションは、地盤条件、洪水リスク、優遇税制地域(オポチュニティゾーン)など、さまざまな土地の変数を地図上で分析し、その地図をクライアント、土木設計者、地盤工学の専門家、その他の関係者と共有できるようにしています。

さらに、データセンターのアドバイザーは、GISを活用した3Dデジタルツインで、敷地上での施設レイアウトを可視化し、以下のような検討がリアルタイムで可能です。

  • 駐車場を増やすと、敷地内の動線や建物の占有率にどう影響するか?
  • 機械設備を屋上に設置できるか?
  • 整地や造成工事に追加投資が必要になるか

「今ではクライアントと一緒に座って、建物を回転させたり、レイアウトを変更したりしながら、『サーバーラックをあと4フィート低くすれば、この敷地にもう1棟建てられますよ』と提案できるようになりました」と語るのは、データセンター用地コンサルティング向けのGISツール開発に携わった、Langan社のシニアプロダクトマネージャー Wittner氏です。

迅速な意思決定の実現

数年前までは、データセンター用地として50エーカーの敷地が「大規模」と見なされ、電力容量1ギガワット(GW)などは現実離れしていると思われていました。
しかし現在では、Amazonがインディアナ州に建設中の広大な施設は、1,200エーカーの敷地にわたり、AI企業Anthropicとの提携のために2GW超の電力を消費する予定です。Meta、Google、OpenAIも、同様に桁違いの規模のデータセンタープロジェクトを進めています。

データセンター用地をめぐる争奪戦が激化する中、Langan社のデイビッド氏とそのチームは、GISテクノロジーに強力な味方を見出しました。
「こうした用地をより迅速に評価できるデジタルソリューション戦略の導入が必要だと、私たちは強く感じたのです」と氏は振り返ります。

用地選定競争の激化を受け、Langan社はGISを活用したデジタル戦略を導入。初期段階では数千の黄色いドットがマップ上に表示されますが、希望面積、高速道路からの距離、地滑りリスクなどで絞り込むことで有望候補が抽出されます。

さらに、地図にデータを追加することで、分析の精度がさらに高まります。たとえば、土壌の種類を可視化することで、地盤が悪く、壁や基礎工事に多額のコストがかかる可能性のある用地を除外したり、低炭素で信頼性の高い電力を求めるクライアントには原子力発電所に近い物件を提案するなど、GIS分析により精度の高い選定が可能です。

また、ブラウンフィールド(再開発可能な旧工業地)など、既存インフラに隣接し熟練労働者のいる地域に近い戦略的な立地もGISで発見できます。

将来を見据えたデータセンター計画

データセンターの用地選定プロセスだけでなく、建設方法そのものも急速に進化しています。最新の建物タイプやプロトタイプ技術の導入が進み、GISによるデジタルツイン(3Dモデル)で建設計画の妥当性やコストを事前に検証できます。

たとえば、土壌の状態はデータセンター建設における最大のコスト要因の一つです。
Langan社のチームは、敷地内での土工量を最小限に抑える造成計画を作成することで、コストの抑制を支援しています。

データセンターは、世界有数のテクノロジー企業の重要な機能を支えるため、セキュリティが極めて重要です。
GISの3Dデジタルツインを使えば、敷地周囲に二重フェンスを設置する際のトレードオフを可視化できます。

これまで数週間かかっていた検討プロセスが、現在ではクライアントとの会議中にリアルタイムでGISシミュレーションで数分で判断可能です。Langan社のDavid氏は「非常に短時間で“この案件を進めるか否か”の高レベルな判断ができる」と述べています。

データセンター用地確保競争が激化する現代において、こうした迅速な意思決定こそが最大の競争優位となっています。

この記事は WhereNext のグローバル版に掲載されたものです。
原文:The Location Science Behind the AI