このたびの平成30年北海道胆振東部地震により被災された方々に謹んでお見舞い申し上げます。
平成30年北海道胆振東部地震では、北海道勇払郡厚真町を中心とした広範囲において多数の大規模な土砂崩れが発生しました。
ESRIジャパンでは ArcGIS プラットフォームを活用し、国土地理院が 2018 年 9 月 6 日以降に順次公開した空中写真を用いて、画像解析により土砂崩れと推定される箇所の抽出を試みました。
この記事では試行した主なフローをご紹介します。
ここからは各フローの概要を紹介します (括弧内は使用製品)。
① 空中写真のダウンロード
国土地理院の「平成30年(2018年)北海道胆振東部地震に関する情報」ページで公開されている空中写真をダウンロードします。解析に使用する空中写真をブラウザー上で指定してダウンロードし、任意のフォルダーに格納しておきます。以降の手順で空中写真と撮影位置を対応付けるためのテーブルを作成します。
次に、撮影地点を地図上の中心位置 ([+] マーク) に合わせて緯度経度座標をコピーし、図に示すような形式でファイル名 (file 列) とともに X, Y, Z 座標を入力した CSV ファイルを作成します。※本ケースでは撮影高度 (Z) は得られませんでしたが、仮に 4,000m としました。
② 空中写真のオルソ処理 (Drone2Map for ArcGIS)
今回は、手順①で取得した空中写真を 1 枚のオルソ画像にするために Drone2Map for ArcGIS を使用しました。Drone2Map for ArcGIS での処理には写真の位置情報が必要です。今回の試行では、写真と位置の対応付けのために手順①で取得した各写真の中心位置を格納した CSV ファイルを使用しました。
- Drone2Map for ArcGIS を起動し、新規プロジェクトを作成します。入力画像を指定するステップでは、[Add Folder] をクリックし手順①で空中写真を格納したフォルダーを選択します。
- [GPS File Required] ウィンドウにて、[GPS File] に手順①で作成した CSV ファイルを選択します。[Field Mappings] の Name, Lat [Y], Long [X], Altitude [Z] のプルダウンから対応する列を選択し、[OK] をクリックします。空中写真と CSV ファイルのテーブルが対応付けられたことを確認し、[OK] をクリックします。
- オルソ処理の位置精度を高めるために GCP (地上の位置を特定するための参照点のこと) を取得します。[Manage GCPs] メニューを使用し、GCP と写真上の対応地点の座標を取得します。※今回の試行では、2 点の GCP を取得しました。
- [Start] ボタンをクリックして処理を実行します。処理が完了すると、オルソ画像が表示されます。
③ 土砂崩れ箇所の推定 (ArcGIS Pro)
このステップでは、手順②で作成したオルソ画像(以下、オルソ画像)と DEM を使用します。DEM は明らかな平坦地の誤抽出を除外する目的で使用しました。
- ArcGIS Pro で任意のプロジェクトを作成し、オルソ画像を表示します。
- コンテンツ ウィンドウでオルソ画像レイヤーを選択した状態で [画像] タブ→ [酸化鉄比] をクリックします。
※酸化鉄比は、赤色と青色の比で算出される、地表の土壌に感度を持つ指標です。 - DEM データ (今回は、ESRIジャパン データコンテンツ「ArcGIS Geo Suite 地形」を用いて、あらかじめオルソ画像をカバーする範囲を切り出して使用しました) を用いて傾斜角を求めます。[画像] タブ→ [ラスター関数] → [サーフェス] → [傾斜角] をクリックし、DEM データを入力して傾斜角レイヤーを作成します。
- 酸化鉄比と傾斜角を用いて土砂崩れ箇所を抽出します。今回「ラスター関数」で試行した条件は次のとおりです。※括弧内は使用したラスター関数です。
- 酸化鉄比 1.3 以上 (再分類)
- 傾斜角 7 度以上 (再分類)
- 条件 A と B の両方を満たす (Boolean And)
- ジオプロセシング ツールの [ラスター → ポリゴン] ツールを使用して、土砂崩れ箇所のラスターをポリゴンに変換します。今回の試行では、変換後のポリゴンから、微小領域の除去のため、面積が 1,000m2 以下のフィーチャを削除しました。
※実際の土砂崩れと一致しない箇所が含まれる可能性があることにご注意ください。
④ Web マップとして公開・共有 (ArcGIS Online)
画像解析により抽出した土砂崩れ箇所を確認できる Web アプリを ArcGIS Online に公開しています。本アプリは、Web AppBuilder for ArcGIS を使用して作成しました。
※アプリの右上の [i] ボタンをクリックすると使い方を確認できます。
※画像をクリックすると Web アプリが起動します。
まとめ
災害発生直後の被害の全容がつかめない時期 (失見当期) において、上空から撮影する画像データ (ドローン・空中写真・衛星画像など) は、全容把握に資する有益な情報です。一方で撮影範囲が広域であるほど、人による画像判読などには膨大なリソースが必要であることから、画像解析による情報抽出の有効性は高まります。
今回ご紹介した解析例については、ArcGIS プラットフォームを活用した災害状況把握ソリューションの一例として活用いただければ幸いです。
※フロー中におけるパラメーター等は、目視による判断で決定したものであり、他の地域にも適用できるとは限らないことをご留意ください。
※Drone2Map for ArcGIS はドローンで撮影した画像の処理に特化した製品であり、本記事でご紹介した空中写真の処理を保証するものではありません。
■関連リンク
・防災 GIS ソリューション | 災害関連ニュース
・ArcGIS Pro の画像処理機能紹介 その 2 ~ 処理と指数 ~
・ArcGIS Pro の画像処理機能紹介 その 3 ~ ラスター関数と関数エディター ~