電力、ガス、水道などの公益企業が扱う設備は、GIS の視点から見ると特別な要件を含んでいます。
たとえば、電力会社であれば電柱や電線、変圧器など、水道局であれば弁栓や配水管といった設備を管理しますが、これらは互いに接続状態が適切に管理されている必要があります。GIS 上で設備図面を扱いますが、管理される設備の種類は多岐にわたり、その数はとても多いのでパフォーマンスよく管理できる仕組みが必要です。電気や水といったリソースが流れる向きを知る必要もあります。また、業種によっては結線図と呼ばれる設備ネットワークを模式化した可視化も求められます。
ArcGIS Utility Network (以下、Utility Network) は、公益企業が設備ネットワークを管理するための ArcGIS プラットフォーム上のフレームワークを提供し、現在、電力、ガス、水道分野などに対応しています。
本連載では Utility Network を 3 回に分けて紹介します。
第 1 回目の本記事では特長、メリット、ライセンスについて触れます。
第 2 回では、今回紹介する特長のうち「1.設備やその振舞いをより現実に近い形でモデル化」と「2.ダイナミックなビジュアライゼーション」について、
第 3 回では「3.より効率的な編集機能と高度なトレース機能」と「4.ArcGIS プラットフォームの利用拡大」について、
それぞれデモムービーを交えながら Utility Network の機能を詳しく紹介します。
特長
Utility Network には大きく以下の 4 つの特長があります。
1.設備やその振舞いをより現実に近い形でモデル化
- 設備間の接続性や関連付けの定義
- 開閉器やバルブなどの設備の開閉状態を切り替えたときの振舞いの定義
- 構造物に設備が格納されている状態の定義
2.ダイナミックなビジュアライゼーション
- フィーダーや配水系統といった設備ネットワーク全体のサブセットの可視化
- GIS データから動的に結線図を作成
3.より効率的な編集機能と高度なトレース機能
- データの品質を維持するためのルールの定義
- 編集作業を省力化するためのグループ テンプレート
- 設備ネットワーク上の分析を可能にするトレース
4.ArcGIS プラットフォームの利用拡大
- ArcGIS プラットフォーム上で設備ネットワークをシームレスに活用
- Web サービス ベースであることを活かした他システムとの連携
メリット
Utility Network の大きな特長はその情報モデルです。この情報モデルにより多様で大量の設備データを効率よく管理し、振舞いを持たせることができます。また、情報モデルは汎用的に作られているため、電力、ガス、水道といった性質の異なる設備ネットワークに対応したデータモデルを作成できます。下の図は電力分野でのデータモデルの一例です。電柱に設置されている変圧器、変圧器に接続されている高圧線と低圧線がモデル化されています。単一のデータモデルの中で電気と通信といった 2 つの異なる設備ネットワークを実装することもできます。
地図に対する操作や業務上の処理は情報モデルを通して実現されます。情報モデルを利用することには、業務運用上とシステム開発上の 2 つのメリットがあります。まず、業務運用上のメリットは、数多くある設備の分類方法を標準化し業務上必要な処理の手順を定型化できることと、他システムとのインターフェイスを共通化できることです。システム開発上のメリットは、開発作業が飛躍的に効率化し低コスト化を実現できることです。これによりメンテナンスを効率化でき、新規要件への対応が容易となります。
公益企業が構築する設備管理向けの GIS はとても複雑であることが多いですが、Utility Network を利用することでシステムの開発工数や保守費用を大幅に削減する効果が期待できます。
ライセンス
Utility Network では使用するジオデータベースの種類に応じてシングルユーザーモデルとマルチユーザーモデルの 2 種類の利用形態が用意されています。
シングルユーザーモデルでは設備ネットワークはファイルジオデータベース上に構築され、利用するために ArcGIS Desktop Standard 以上のライセンスが必要です。単一の ArcGIS Pro クライアントから設備ネットワークを操作できます。この形態は小規模事業者やプロトタイプの検証に適しています。
マルチユーザーモデルでは設備ネットワークはマルチユーザージオデータベース上に構築され、利用するために ArcGIS Enterprise ユーザータイプのエクステンション ライセンスが必要です。マルチユーザーモデルでは ArcGIS Enterprise によるサービスベースのアーキテクチャを通して、デスクトップ、Web、モバイルから設備ネットワークを操作できます。この形態は大規模事業者における組織的な利用に適しています。
本記事では Utility Network の概要を紹介しました。
次回からは Utility Network の機能についてデモを交えて紹介します。
※Utility Network は現時点では国内でのサポートは未対応ですが、本記事をご覧になって本製品に興味を持たれた方は お問い合わせフォーム からお問い合わせください。