ArcGIS Pro では、SAR 画像の事前処理としてさまざまな補正を行う事ができます。ArcGIS Pro 3.5 からは、新たに [斜面勾配補正データの生成] ツールが追加されました。斜面勾配補正は、熱ノイズ補正や放射量補正といった L1 (Level 1) 処理の次に行われる L2 (Level 2) 処理の 1 つです。
本記事では、[斜面勾配補正データの生成] ツールの特徴と、実際の処理結果をご紹介します。
※ご紹介する [斜面勾配補正データの生成] ツールを使用するには、ArcGIS Image Analyst エクステンションが必要です。
斜面勾配補正データとは
斜面勾配補正データとは、SAR 画像の撮影方法に起因する放射や幾何的な歪み、ノイズを除去したデータを指します。ArcGIS Pro で斜面勾配補正データを作成する際は、まず複数のツールで L1 処理を行う必要があります。Sentinel-1 画像の L1 処理を例に挙げると、以下の 9 つのツールで構成されるワークフローに沿って行われます。
それぞれのツールには、役割があり大きな流れとして「軌道補正」→「後方散乱補正」→「圧縮処理」→「放射補正」→「ノイズ補正」→「幾何補正」の順で処理が進行します。ArcGIS Pro 3.4 以前では、これらの処理をツールごとに実行する必要がありました。
斜面勾配補正データの生成ツールとは
※[斜面勾配補正データの生成] ツールを使用するには、ArcGIS Image Analyst エクステンションが必要です。
ArcGIS Pro 3.5 で新しく追加された [斜面勾配補正データの生成] ツールでは、1 つのツールにパラメーターを設定するだけで L1 処理と斜面勾配補正データの作成を同時に行うことができます。ツールの実行に必要なのは、入力 SAR 画像 ❶、出力画像名 ❷、入力 DEM 画像 ❸ の 3 つです。
[偏波バンド] パラメーターでは、出力する偏波を選択できます。また [出力単位] パラメーターでは、出力データの値を [線形 (linear)] または [デシベル (dB)] のどちらかを選択できます。
また、[中間レーダー プロダクト] パラメーターでは、L1 処理で生成される 7 つの中間データから出力したいデータを選択できます。必要な中間データを選択した状態でツールを実行することで、[出力フォルダー] に指定したデータを出力できます。
斜面勾配補正データの生成ツールの結果
最後に斜面勾配補正データの生成ツールの結果を少しご紹介します。
まずは、斜面勾配補正を行う前のデータを見てみましょう。以下は阿蘇山火口周辺の放射量補正だけを行った SAR 画像です。背景地図に地形図を表示していますが、SAR 画像では、山頂付近などが左側に倒れ込むようにズレています。
次に、斜面勾配補正を行った後のデータを見てみましょう。補正前のデータと比べて、背景地図と SAR 画像の地形がぴったり合わさっているのがわかります。このように、斜面勾配補正によって、SAR 画像から傾斜による歪みが除去されるため、他の解析において SAR 画像を有効に活用できるようになります。
おわりに
今回は、ArcGIS Pro 3.5 から新しく追加された斜面勾配補正データの生成ツールについてご紹介しました。従来のワークフローを 1 つのツールで実行できるため、誰でも簡単に SAR 画像の事前処理が可能になり、より効率的に SAR 画像を解析に活用できるようになりました。ぜひ、みなさんもこの新機能を活用して、SAR 画像解析の可能性を広げてみてください。
参考リンク
- ArcGIS Pro 製品ページ
https://www.esrij.com/products/arcgis-pro/ - ArcGIS Image Analyst 製品ページ
https://www.esrij.com/products/image-analyst/