目次
はじめに
上の画像は日本人がたどり着いた最も深い場所である小笠原海溝の最深部 (暫定 9,801m) の様子を ArcGIS Pro のレイアウトを使用して 3D ジオラマとして可視化したものです。ArcGIS Pro では様々なツールを使用しデータを可視化、解析できるだけでなく、レイアウトを活用してデータをより魅力的に表現することができます。
本シリーズでは、3 本のブログにわたって ArcGIS Pro のレイアウトで海底地形の 3D ジオラマを作成する方法についてご紹介します。第 1 弾にあたる今作では GEBCO (The General Bathymetric Chart of the Oceans: 大洋水深総図) のダウンロード アプリから小笠原海溝の最深部の地形データを入手し、ArcGIS Pro で可視化する方法についてご紹介します。皆様も海底地形の 3Dジオラマ作成に挑戦してみてください。
小笠原海溝の最深部
2022 年 8 月 13 日、名古屋大学大学院環境学研究科の道林克禎教授をはじめとする調査メンバーが潜水艦リミティング・ファクター号に搭乗し、日本周辺の超深海海溝域の調査を実施しました。調査の結果、日本人による最深潜航記録を 60 年ぶりに更新し、小笠原海溝の最深部に到達しました。詳細は名古屋大学の記事をご参照ください。
今回はリミティング・ファクター号の潜水地点 (北緯: 29.4181° 東経: 142.7069°) 周辺の海底地形データを GEBCO のアプリケーションから取得し、3D ジオラマを作成します。
海底地形 3D ジオラマの作成方法
ステップ 1: データの取得
GEBCO Gridded Bathymetry Data Download アプリからリミティング・ファクター号の潜水地点周辺の海底地形データをダウンロードします。GEBCO は世界中の海底地形図を作成するプロジェクトで、国際水路機関 (IHO) と国連教育科学文化機関の政府間海洋学委員会 (UNESCO-IOC) が共同で推進しています。GEBCO のデータは地球全体の海底地形をカバーしており、誰でも無料で利用できます。利用規約の詳細はこちらをご参照ください。
ダウンロード手順は以下の通りです。
- GEBCO Gridded Bathymetry Data Download アプリを開きます。
- [ENTER BOUNDARIES] にリミティング・ファクター号の潜水地点 (北緯: 29.4181° 東経: 142.7069°) を範囲の中心に含むように以下のように経緯度を入力します。
- 北: 29.9925
- 南: 28.8414
- 西: 142.0606
- 東: 143.3656
- [SELECT FORMATS] で Grid 列の GeoTIFF にチェックを入れ、最下部の [Add to basket] をクリックします。
- [View basket] をクリックし、[Download your data] をクリックしてデータをダウンロードします。
ステップ 2: ArcGIS Pro にデータを追加
ArcGIS Pro にダウンロードした海底地形データを追加し、適切なシンボルを設定します。
- ArcGIS Pro を起動し、[新しいプロジェクト] で [マップ] をクリックします。
- 表示されたウィンドウで [名前] に「海底地形 3D ジオラマ」と入力し、任意の保存場所を指定して [OK] をクリックします。
- ステップ 1 でダウンロードした GeoTIFF ファイルをドラッグ アンド ドロップまたは [データの追加] → [参照] で選択しマップに追加します。
- [コンテンツ] ウィンドウで追加したレイヤーの名称を「小笠原海溝」に変更します。
- [小笠原海溝] が選択された状態で [ラスター レイヤー] タブ → [シンボル] をクリックします。
- [配色] ドロップ ダウンを展開して [名前の表示]、[すべて表示] チェックボックスをオンにし、[海底地形 #3] をクリックします。
- [コンテンツ] ウィンドウで「小笠原海溝」以外のレイヤーを削除します。
ステップ 3: マップを充実させる
リミティング・ファクター号の潜水地点にポイント フィーチャを作成してマップを充実させます。またこの先のステップ 5 で使用するために「小笠原海溝」レイヤーと同じ範囲にポリゴン フィーチャを作成します
- [挿入] タブを開き、[ポイント マップ メモ] をクリックして追加します。
- [コンテンツ] ウィンドウで [ポイント メモ] が選択された状態で [編集] タブをクリックし、右側の [フィーチャ作成] ウィンドウで [ポイント メモ] をクリックします。
- マップ上にカーソルを移動し、右クリックして [絶対 X,Y,Z] をクリックします。
- 経度に「142.7069」、緯度に「29.4181」をそれぞれ入力します。
- マップ下部の [完了] をクリックして、[保存] をクリックします。
- 同様の操作で [挿入] タブから [ポリゴン マップ メモ] を追加し、目視で [小笠原海溝] に重なるようにポリゴンを作成します。
- レイヤー名を以下のように変更します。
- ポイント メモ → リミティング・ファクター号潜水地点
- ポリゴン メモ → 海溝範囲
ステップ 4: 3D シーンの作成
マップを 3D のローカル シーンに変換します。この際、高低差をより分かりやすく表現するため高さを 5 倍に強調して表現します。また、陰影起伏をオーバーレイしてリアリティのある可視化を行います。
- [表示] タブ → [変換] をクリックし、[ローカル シーンに変換] をクリックします。
- [コンテンツ] ウィンドウで [標高サーフェス] の [地表] にある既存の標高ソース レイヤーをオフにします。
- [小笠原海溝] をコピーし、[標高サーフェス] の [地表] に標高ソース レイヤーとして貼り付けます。
- [地表] をクリックして選択し、[標高サーフェス レイヤー] タブの [高さ強調] で 値を「5.00」に設定します。
- [小笠原海溝] をクリックして選択し、[画像] タブ → [ラスター関数] をクリックして [ラスター関数] ウィンドウを開き、[サーフェス] セクションの [陰影起伏] をクリックします。
- [陰影起伏 プロパティ] ウィンドウで、[パラメーター] タブの [ラスター] に [小笠原海溝] を選択し、[陰影起伏タイプ] で [複数の光源方向] を選択します。その後、 [新しいレイヤーの作成] をクリックします。
陰影起伏タイプで [複数の光源方向] を選択すると、複数の光源を組み合わせた陰影起伏が作成されます。[一つの光源方向] と比較して、より詳細でリアルな描画が可能です。詳細はヘルプをご参照ください。
- 作成された [陰影起伏_小笠原海溝] レイヤーを選択し、[ラスター レイヤー] タブの [レイヤーのブレンド] で [オーバーレイ] を選択します。
ステップ 5: シーンを充実させる
3D シーンをより分かりやすくするため、「リミティング・ファクター号潜水地点」ポイントを適切な高さに配置します。また深海の区分である漂泳区分帯に合わせて、各水深にポリゴンを作成、配置します。
- [コンテンツ] ウィンドウで [リミティング・ファクター号潜水地点] を右クリックし、[プロパティ] をクリックします。
- [高度] セクションの [カートグラフィック オフセット] に「-49005」と入力して、[OK] をクリックします。
これは本来の潜水深 (暫定 9,801m) を標高サーフェス レイヤーと同様に高さを 5 倍に強調したものです。
- [コンテンツ] ウィンドウで [海溝範囲] をコピーし、[3D レイヤー] に 5 つ貼り付けます。
- [海溝範囲] のいずれかを右クリックし、[プロパティ] → [高度] で [カートグラフィック オフセット] に「0」と入力して、[OK] をクリックします。
- [コンテンツ] ウィンドウで名称を「海面」に変更します。
- 残りの 5 つのポリゴンについて、[カートグラフィック オフセット] に、以下のように値を入力し、浅いものからそれぞれ「表層」「中層」「漸深海層」「超深海層」「底面」と名称を変更します。
- -1000m
- -5000m
- -15000m
- -30000m
- -55000m
各ポリゴンの [カートグラフィック オフセット] の値も実際の水深を 5 倍しています。
まとめ
第 1 弾となる今回は、ArcGIS Pro で海底地形を可視化する方法についてご紹介しました。第 2 弾、第 3 弾では今回作成した 3D シーンを使用した海底地形の 3D ジオラマの作成方法についてご紹介いたします。
皆様も ArcGIS Pro を活用した海底地形の視覚化に挑戦してみてください!
参考情報
- GEBCO ホームページ
- 名古屋大学研究成果発信サイト
「【速報】日本人の最深潜航記録を60年ぶりに更新! ~小笠原海溝最深部9801m(暫定値)にフルデプス有人潜水船リミッティングファクター(Limiting Factor)号で潜航調査~」 - 漂泳区分帯はいくつかの解釈がありますが、環境省「海洋生物多様性 保全戦略」を参考にしました。
- 使用した海底地形データの出典は以下の通りです。
- GEBCO Compilation Group (2024) GEBCO 2024 Grid (doi:10.5285/1c44ce99-0a0d-5f4f-e063-7086abc0ea0f)