ArcGIS Pro 3.5 より、廃棄物収集解析ができるようになりました。廃棄物収集解析は、歩道の脇に出された家庭ごみを収集し、中継所 (埋立地) に廃棄する複数の車両を対象に、配車ルート (VRP) 解析のアルゴリズムを基にして設計された使用例に特化した解析です。特定の収集日に多くの世帯から廃棄物を収集する単一の地区の計画を目的としています。アメリカでは、各住居の前の道路沿いにごみボックスを置き、ごみを回収するというルールの地域が多く、そのルールに基づいてツールが設計されています。
本記事では、廃棄物収集解析について、必要なライセンスやデータ、配車ルート (VRP) 解析との違い、新聞・古紙回収による解析例をご紹介します。
目次
廃棄物収集解析に必要なライセンス・データ
廃棄物収集解析をするには、Network Analyst を有効化する必要があります。また、2025 年 9 月現在は ArcGIS Online ネットワーク サービスに対応していないため、ネットワーク データセットを準備する必要があります。ESRIジャパンが販売している、ArcGIS Geo Suite 道路網・履歴交通量付き道路網・車種別規制付き道路網は廃棄物収集解析に対応しているネットワーク データセットです。本記事の解析例ではそのうち、ArcGIS Geo Suite 道路網を使用しています。
ユーザー タイプが Creator ・Professional の場合は、Network Analyst エクステンションを個別で追加する必要があります。ユーザー タイプが Professional Plus の場合は、 Network Analyst エクステンションが含まれているため購入していただく必要はありません。
廃棄物収集解析と配車ルート (VRP) 解析の類似点と相違点
配車ルート (VRP) 解析と廃棄物収集解析のどちらを使用しても、複数車両が顧客の場所で収集し、必要に応じて車両を空にする作業を 1 日中実施する設定ができます。ただし、廃棄物収集解析は廃棄物収集に特化した解析のため、柔軟な設定が可能な配車ルート (VRP) 解析よりパフォーマンスが向上しています。
廃棄物収集解析は、地理的に密集しているストップに対して廃棄物を収集するルートを生成することに長けています 。広範囲な地域を対象にしたり、ストップの位置が著しく分散していたり、期間が複数日に渡ったりする場合は、配車ルート (VRP) 解析を使用してください。また、配車ルート (VRP) 解析は ArcGIS Online ネットワーク サービスに対応しています。
廃棄物収集解析の解析例
ある地域において新聞・古紙回収を行うという、仮のストーリーに基づいて、廃棄物収集解析の方法を手順付きでご紹介します。道路網以外は、すべて仮のデータを使用しているため、実際の場所の使用用途や廃棄物発生に関する情報と異なることをご了承ください。
条件とデータの詳細
今回は、佐倉市の一部の地区において、解析を行います。
- 使用車両: 最大積載量 2 トンの収集車 3 台
- 収集拠点: 川沿いの土地 (実際の場所の使用用途とは異なります)
- 収集形態: 両側回収
- 作業時間: AM 8:00 に開始し、最大合計時間は 8 時間。
- 新聞・古紙の廃棄物発生の割合: 地区内の全建物 (2200 戸) の約 70% (1520 戸) で廃棄物の発生とし、1 ヶ月分の廃棄物を保有。
- 詳細な内訳: 新聞を毎日取得する人は約 30% 。その他は週 1~6 日取得するとし、約 5% ずつ分類 (建物ごとの 1 ヶ月の廃棄物の量に影響)。古紙のみは約 10% とする。
- 新聞・古紙の重量: 新聞 (+古紙) は 1 日 0.5kg とする (1 ヶ月換算: 週 1 日で 2kg、週 2 日で 4kg、週 3 日で 6kg、週 4 日で 8kg、週 5 日で 10kg、週 6 日で 12kg 毎日で 14kg、古紙のみで 1 kg)。
- 廃棄物の収集時間: 1, 2, 4kg で 10 秒、6, 8, 10kg で 20秒、12, 14kg で 30秒かかるとする。
- 道路網: ESRIジャパン販売の道路網
設定手順と解析結果
①はじめに、ネットワーク データセットを設定します。画像の状態では ArcGIS Online ネットワーク サービスが指定されているため、廃棄物収集解析が選択できないようになっています。
手順:
[解析] タブ → [ワークフロー] グループの [ネットワーク解析] をクリック → [データソース] をクリック → 任意のネットワーク データセットを選択
②ネットワーク データセットを指定すると、廃棄物収集解析を選択することができるようになります。
手順:
[解析] タブ → [ワークフロー] グループの [ネットワーク解析] → [廃棄物収集] をクリック
すると、廃棄物収集レイヤーが作成されます。
③収集車が発車する拠点を設定します。今回は川沿いの土地に事前にポイント (画像では、「WCA_拠点」) を作成しているものを設定します。
手順:
[廃棄物収集レイヤー] タブ → [入力データ] グループの [拠点のインポート] → [ロケーションの追加] ウィンドウで以下の画像のとおりに設定し、[適用] をクリック
④収集車が停車する建物を設定します。今回は事前に作成した廃棄物が発生する建物の重心ポイント (画像では、「WCA_廃棄物発生建物_ポイント」) を設定します。このポイント データには月にどれくらいの新聞・古紙の廃棄物 (単位: kg) を溜めているかの数値を格納している「Waste_kg」フィールドを持っています。
手順:
[廃棄物収集レイヤー] タブ → [入力データ] グループの [ストップのインポート] → [ロケーションの追加] ウィンドウで以下の画像のとおりに設定 ([プロパティ] の [Weight_1] フィールドに 「Waste_kg」 フィールドを入力することで、廃棄物の重量を値として設定可能) し、[適用] をクリック
廃棄物収集解析レイヤーの [ストップ] フィーチャの属性テーブルを開くと、[Weight_1] フィールドに廃棄物の重量のデータが格納されたことが確認できます。今回は重量の値を入力しましたが、同様に個数や体積を入力したり、複数の保管ボックスを設定したりすることも可能です。
⑤廃棄物の重量に対応する収集時間のデータの格納をします。
手順:
[ストップ] フィーチャの属性テーブルを開き、以下の画像のとおりに設定 (フィールド演算の条件分岐による入力を使用し、重量に合わせて収集時間 (単位: 分) を入力) し、[適用] をクリック
[ServiceTime] フィールドに廃棄物の収集時間のデータが格納されたことが確認できます。
⑥車両の数や最大積載量、開始・終了拠点場所・時間などの車両に関する設定をします。
手順:
廃棄物収集レイヤー] タブ → [入力データ] グループの [ルートの追加] → [車両の経路指定でのルートの追加] ウィンドウで画像のとおりに設定し、[適用] をクリック
⑦最後に、収集に関するその他の設定をし、解析を実行します。
手順:
[廃棄物収集レイヤー] タブで、以下の画像のとおりに設定 → [解析] グループの [実行] をクリック
⑧マップや属性テーブルで解析の結果を確認します。
マップを見ると、ルートが未割り当てになっている建物が発生していることがわかります。
ストップの属性テーブルを開くと、どのルートに割り当てられたか ([RouteName] フィールド)、廃棄物回収の順番 ([Sequence] フィールド) などが確認でき、未割り当てになっている建物は Capacities が超過して回り切れなかったことがわかります ([ViolatedConstraint_1] フィールド)。
ルートの属性テーブルを開くと、廃棄物を収集した建物数 ([StopCount] フィールド)、かかった時間 ([TotalTime] フィールド)、移動距離 ([TotalDistance] フィールド) などが確認できます。
リニューアルの設定と解析結果
先ほどの解析では、廃棄物が収集車の積載量を超えて、すべての回収地点を回れなかったため、廃棄物を空にして再度収集を開始できるリニューアル (廃棄物置き場) を設定します。この地点での作業時間は 30 分として設定します。
①前のセクションでのリニューアルなしの解析と区別するために、新たな廃棄物収集レイヤーを作成します。前のセクションの ⑦ の収集に関する設定までを手順どおりに行います (入力の際は前セクションのデータを参照してよい)。解析の実行はまだしません。
②先ほどの解析では、拠点のポイントを作成済みのものを追加しましたが、今回はロケーターを使用してポイントを追加する手順で実施してみます。ロケーターを使用すると、住所を入力することでポイントを作成できます。手動で追加する方法とロケーターを使用してポイントを追加する方法がありますが、解析の結果に相違はありません。また、ロケーターである、ArcGIS World Geocoding Service を使用した場合、1 件の住所につき 0.04 クレジット消費することにご注意ください。
手順:
[マップ] タブ → [照会] グループの [場所検索] ドロップダウンリストで [検索] をクリック
[場所検索] ウィンドウの [ロケーター] に「ArcGIS World Geocoding Service」を設定し、[検索] ボックスに住所を入力し、検索
マップの位置を確認し、該当の場所を選択し、右クリック → [フィーチャクラスに追加] をクリック
[フィーチャクラスに追加] ウィンドウで [リニューアル] を選択し、[OK] をクリック
マップにリニューアル (廃棄物置き場) が作成されたことが確認できます。
③リニューアルを考慮した解析を実行するための設定を行います。
手順:
[廃棄物収集レイヤー] タブ → [入力データ] グループの [ルート リニューアルのインポート] → [ロケーションの追加] ウィンドウで画像のとおりに設定 ([RouteName] フィールドに名前を設定するかは任意であり、後で設定可能) し、[適用] をクリック
[ルート リニューアル] テーブルを開き、[RouteName] フィールド・[RenewalName] フィールド・[ServiceTime] フィールドを左の画像のとおりに入力します。この際のルートの名前 (RouteName)・リニューアルの名前 (RenewalName) はルート フィーチャ・リニューアル フィーチャの [Name] フィールドとそれぞれ合致している必要があります。
④リニューアルの設定が完了したので、解析を行います。
手順:
[廃棄物収集レイヤー] タブ → [解析] グループの [実行] をクリック
前のセクションと同様に [ルート] テーブルや [ストップ] テーブルの解析結果を確認すると、すべての廃棄物が時間内に収集されていることがわかります。
おわりに
本記事では、Network Analyst エクステンションで行える廃棄物収集解析についてご紹介しました。廃棄物収集解析のその他の便利な機能として、ルート案内やルート レポートの生成などがあります。ぜひご活用ください。また、廃棄物収集解析の手順を習得したい場合は、米国のデータを使用して廃棄物収集解析を学べるチュートリアル「自治体の廃棄物収集ルートの最適化」も併せてご確認ください。