はじめに
SAR 画像が ArcGIS Pro でも利用できることはご存じですか?ArcGIS Proでは、バージョン 3.1 から SAR 画像をサポートしています。また、ArcGIS ブログでも、SAR 画像を用いた船舶検出の方法について紹介しています。本ブログでは、SAR の概要、 ArcGIS Pro での処理・解析例について、3 回に分けてご紹介します。
第 1 回は、SAR とは何か、SAR 画像の判読方法について説明いたします。
SAR 画像とは
SAR (合成開口レーダー)とは、人工衛星に搭載されるセンサーの一種です。このセンサーは地表に向かってマイクロ波を照射し、その反射を利用して地表の情報を取得します。
しかし、反射されたマイクロ波をそのまま観測すると、得られる画像の解像度は粗くなり、地表の詳細な判読には適しません。センサーの解像度を高めるためには、衛星に搭載するアンテナを大きくする必要がありますが、衛星に搭載できるアンテナの大きさには限界があります。
そこで、SAR では高解像度を得るために、アンテナ (開口部)を疑似的に大きくする技術、「合成開口」を行います。センサーが地表を何度も撮影する際、少しずつ画像の取得する位置をスライドさせることで、疑似的に大きなアンテナ (開口部) を生成し、高解像度の画像を取得することができます。
SAR 画像の特徴・利用については以下の通りです。
SAR の特徴・利用
- 衛星から発したマイクロ波が地表や水面から反射される強度を観測
- マイクロ波は雲を透過する性質を持つため、雨天時や夜間でも撮影が可能
- 地表をスライドしながら画像を取得し、大きな開口部を生成することで高解像度の画像を取得
- 災害監視、石油流出の検出、船舶の監視など、さまざまな分野で利用
- 光学画像と比べて画像の判読が難しく、利用には処理が必要
下の画像はどちらも雨天時に取得されたものですが、光学画像は太陽が発した可視光線や熱赤外線を利用するため雲を透過せず、地表の様子が観測できないのに対し、SAR 画像は雲を透過する性質を持つマイクロ波を自ら発して観測するため、判読が難しいものの地表が確認できることがわかります。
左) Sentinel-2 撮影の 2024 年 8 月29 日の光学画像
右) Sentinel-1 撮影の 2024 年 8 月 21 日 の SAR 画像
光学センサーと SAR センサーを比較すると、以下のようになります。光学画像等について詳細を知りたい場合、「GIS 基礎解説」も参考にしていただけますと幸いです。
ArcGIS Pro でサポートしている SAR センサー
SAR は雨天時でも観測することができると説明をしましたが、それはマイクロ波の波長の長さによるものです。光学センサーより長い波長を使用することで、煙や雲、塵などを透過して観測を行うことがでます。利用するマイクロ波の中でK バンドから P バンドまで細かく区分されており、波長が長いほど小さな物体は検出しにくくなります。例えば、L バンドは波長が 15 ~ 30㎝ と長く、樹冠を検出せずにその下の地表を撮影できます。しかし、波長が 2.4~3.75cm の X バンドは樹冠からの直接散乱を捉え、樹冠を詳細に映し出した画像を作成します。
ArcGIS Pro は様々な SAR センサーに対応しており、下の表は ArcGIS Pro 3.3 に対応しているセンサーとそれらの運用機関やプロダクト タイプの一部を抜粋しまとめたものです。
詳細に ArcGIS Pro がサポートしている衛星やプロダクト タイプが知りたい場合は、ArcGIS Pro のヘルプ ドキュメント「合成開口レーダー ラスター タイプ」 から、使用したいプロダクト タイプを確認してご利用ください。
地表判読の方法
観測衛星から照射されたマイクロ波は一定の向きに振動しており、このことを「偏波」といいます。偏波の種類には、VV、VH、HV、HH の4種類があり、照射される際に振動する方向と、反射される際に振動する方向で分類されています。V は Vertical、H は Horizontal のことで、VVと HH の照射されるマイクロ波と反射されるマイクロ波が同じ向きのものを共偏波、VH と HV の照射されるマイクロ波と反射されるマイクロ波が違う向きのものを交差偏波といいます。
照射されたマイクロ波は、物体に当たった際に散乱をします。散乱には主に、2 回反射、体積散乱、散漫散乱、鏡面反射の 4 つのタイプがあり、照射されたマイクロ波などの波や粒子が照射された方向に反射することを、「後方散乱」といいます。SAR においては、散乱のタイプによってマイクロ波後方散乱の強度や偏波が変化するため、反射した物体が何であるか把握することができます。
ここまでが、SAR の簡単な説明となります。
さらに詳しく SAR について知りたい方は、ArcGIS Pro のヘルプ ドキュメントの SAR の概要をご覧ください。
次回のブログでは、ArcGIS Pro での Sentinel-1 画像の利用についてご紹介いたします。