目次
はじめに
ルート解析や商圏 (到達圏) 作成するときに利用する道路ネットワーク データ。
道路ネットワーク データの解析は、購入して利用する「ArcGIS Geo Suite:道路網」(以下、道路網) でのネットワーク解析と、ArcGIS Online のネットワーク データをクレジットを消費することで利用できる「ネットワーク解析」があります。
ここでは、2 つの道路ネットワークを比較しながら、どういうケースなら道路網を購入をした方がよいのか、まとめてみました。
ArcGIS Online ネットワーク解析の 1 クレジットでできること
まず、ArcGIS Online を通じて利用できるネットワーク解析は、データを購入する必要なく、クレジットを消費することで解析が行える利点があります。解析に必要なクレジットの消費量は次のようになります。
解析タイプ別の比較表
| 解析タイプ | 消費クレジット* | 1 クレジットでの解析回数 | 500 クレジットでの解析回数 | 道路網購入相当での解析回数 |
|---|---|---|---|---|
| 単純ルート (順序=入力順で解析) | 0.005 / 回 | 200 回 | 100,000 回 | 約 10,200,000 回 |
| 最適化ルート (順序最適化) | 0.5 / 回 | 2 回 | 1,000 回 | 約 102,000 回 |
| 到達圏 (1 リング) | 0.5 / 件 | 2 件 | 1,000 件 | 約 102,000 件 |
| VRP (配車ルート) | 1 / 車両ルート | 1 ルート | 500 ルート | 約 51,000 ルート |
| OD コストマトリックス (1 起点 -1 終点のペア) | 0.0005 / ペア | 2,000 ペア | 1,000,000 ペア | 約 102,000,000 ペア |
* 2026 年 3 月時点での消費クレジット
ルート検索 1 回当たり 0.005 クレジット消費、と書かれてもピンと来ないと思いますので、表には 1 クレジットでそれぞれ何回解析ができるのも記載しています。
ひとつの目安として、Creator ライセンスには年間 500 クレジットの枠が付随していますが、この 「500 クレジットを超えて利用するかどうか」は、道路網を購入するかどうかの最初の判断基準になるのではないでしょうか。
結果をまとめると・・・
- 単純ルート解析は、クレジットをほとんど気にせず使える
- 最適化ルート解析 / 到達圏解析は、計画的な利用が見込まれる場合はクレジットでも十分対応可能な範囲
- 配車ルート解析は、複数車両で解析する場合はクレジット消費が大きくなる
- OD コスト マトリックスは「起点 × 終点ペア数」でクレジット消費量が決まるため、規模次第で大きく変わる
データの性格の違い
ArcGIS Online のネットワーク解析で利用されるデータと、道路網のデータはほとんど同じものといってよいです。しかし、Online でのネットワーク解析と道路網 (オフライン) でのネットワーク解析では行えることに少し差があり、2 つのネットワーク データはそれぞれ次のような特徴があります。
ArcGIS Online 道路ネットワーク データ
- Esri 提供のグローバル標準ネットワーク (国や地域ごとの差異は吸収されている道路データ)
- 道路データは自動更新される (年 1 回)
- ユーザーが解析時に直接触れられる解析パラメーターは移動モードのみ (規制情報は移動モードに内包)
- 日本国外の解析も可能 (日本国内のデータはオフライン用データと同等)
ArcGIS Geo Suite 道路網
- ArcGIS Pro で使う日本国内用のオフライン解析ネットワーク
- ArcGIS Enterprise にサービスとしてアップロードすることで、組織のネットワーク データとして利用できる
- 道路データは買い切り (更新版を利用したい場合は要購入)
- ユーザー自身が移動モードをカスタマイズできる (ご購入時にすでに設定済み)
- 初期設定から移動モードをカスタマイズすることも可能
(ネットワーク データセット構築時に移動モード+規制情報をユーザーが設定できる) - 解析結果の再現性を確保しやすい
- 追加購入するオプション製品が利用できる
- 車種別規制オプション:大型車などで「通行可否」を変える前提を道路網側で切り替えられる
- 履歴交通量オプション:時間帯・曜日別の速度 (混雑) を前提にした移動時間で解析できる
- 道路幅員オプション:道路幅員値として最小幅員値 (推定) を割り当てたデータ
(すべての道路が推定の対象になっているわけではないので注意)
同じ起終点でも結果が変わる?ルート解析の挙動の違い
ArcGIS Online のネットワーク解析と道路網では、同じ起終点を使って解析をしても結果が変わる場合があります。それは、解析時に設定できる内容に違いがあるため、経路が決まる要因に差が出るからです。
- ArcGIS Online (画像左):利用者は、移動モードを選択する (詳細条件は移動モード (管理者設定) に内包)
- 道路網 (画像右):利用者が移動モードごとに使用インピーダンスと有効な規制を設定する
道路網 (画像は ArcGIS Pro でのプロパティ表示) は移動モードの設定の中に適用する規制を設定する項目があり、そこでさらに自動車専用道路や有料道路の使用可否、5.5m 未満道路の使用可否などが設定できる。
設定の違い
| 差が出るポイント | Online (デフォルト) | 道路網 (デフォルト) |
|---|---|---|
| ユーザーが選べる内容 | 運転時間 / 運転距離 / 徒歩など | 所要時間_自動車 / 混雑時 / 距離 |
| 経路が決まる主要因 | 移動モードに内包された規制・パラメーター+Hierarchy | 移動モード (インピーダンス) + 明示された規制セット |
| 結果が幹線優先になるか (上位階級の道路を優先利用) | Hierarchy が有効な移動モードにすることで幹線優先にされやすい | 規制とインピーダンスで決まる (幹線優先という設定はない) |
| 混雑の扱い (日本国内) | 道路標識の速度制限 (固定速度) が適用される (ライブ交通量は利用されない) | ユーザーが混雑条件を選択することで混雑時 / 非混雑時の固定速度が適用される |
| 規制の適用 | ユーザーの個別設定はなく、移動モードに内包されている | モードごとに選択可 |
違いをまとめると・・・
- ArcGIS Online のネットワーク解析
- ルート探索時の挙動は、選択した 移動モード (Travel Mode = インピーダンス) に従って決まる
- ユーザーは個別条件を切り替えるのではなく、定義済みの移動モードを選択する
- インピーダンス詳細 ≒ 規制情報は組織設定にあり、解析結果からは設定値が見えにくい
- Geo Suite 道路網
- 移動モードごとに、利用する規制情報が明示されている
- ユーザーは移動モードに寄らず、個別条件を切り替えることができる
- どの条件で解析されたか、設定値を説明しやすい
ノート:ArcGIS Online の移動モードと Geo Suite 道路網の規制の対応
同じ目的を達成するための、両者の設定の違いの対応表です。
目的別の対応関係
| 規制の内容 | Online | Geo Suite |
|---|---|---|
| 高速道路を使わない | 定義済移動モード Avoid Limited Access Roads (回避 / 禁止) を ON | 規制情報で「自動車専用道路を使用しない」を使用 |
| 有料道路を使わない | 定義済移動モード Avoid Toll Roads (回避 / 禁止) を ON | 規制情報で「有料道路を使用しない」を使用 |
| 幹線優先 / 生活道路抑制 | 組織の設定で Hierarchy ON (上位道路優先) の状態で利用 | × |
| 生活道路も含める | 組織の設定で Hierarchy OFF (全道路を同列に探索) の状態で利用 | × |
| 大型車規制を考慮 | × (※日本以外はトラック系移動モード (Trucking time/distance) が利用可) | △。車種別規制オプション (追加データ) で対応可 |
| 混雑 / 非混雑で比較 | 日本ではライブ交通量がないため、Geo Suite 道路網と同じ混雑時の速度で対応 | 「所要時間_自動車」と「所要時間_自動車_混雑時」をモード選択で切替 |
| U ターン制御 | U ターンポリシーを移動モード側で定義 | モード定義でコストを設定 (徒歩 / 自転車は交差点コストを加算しない等) |
| 通行止め回避 | バリア (ポイント / ライン / ポリゴン) で回避 | Network Analyst のバリア指定で回避 (同様) |
ではどの条件なら道路網データを買うべき?
データ購入が必要な場合
次の場合は利用頻度に関わらず、データ購入が必要です。
- 外部接続不可の環境にある
- 大型車などの車種別規制情報を使いたい
- 曜日別の最適ルートを探索したい
- 解析結果の再現性を確保したい
- ArcGIS Enterprise で組織のネットワーク データとして利用したい
条件次第でどちらを選んでも OK
- 利用頻度による使い分け
使用頻度の見通しが立つ、あるいはすでに固定化された業務なら ArcGIS Online のネットワーク データを利用したクレジット対応もしやすいと思います。
一方で、次の場合は Geo Suite 道路網の購入の方がよいです。- これからネットワーク解析を使った業務の設計をしたい
- 解析条件を好きなタイミングで変更して解析したい
- 組織の決済基準による使い分け
次の場合は Geo Suite 道路網の方が導入しやすいように思われます。- 必要に応じて都度クレジット購入することが難しい
- 1 年間の有効期限つきのクレジットを購入することに抵抗感がある
どのくらいの利用をするか見通しが立てにくい、利用頻度が固定でない場合は道路網を購入する方が無難です。
また、都度クレジットを購入することが難しい組織の場合も道路網を購入する方がよいと思います。
現実問題として、利用頻度だけでは決められない?”隠されたコスト”
金額を最低限に済ませようとすれば、都度クレジット購入が合理的とわかっていても、
- その度に何度も承認フローに従って購入するのか?
また、必要量のクレジットを一括で買うことでコストが抑えられるとしても、
- 必要量は最初から見通しが立っているのか?
- 翌年に繰り越しできない余りクレジットをドライに切り捨てられるのか?
といった ” 導入しやすい方法かどうかというコスト ” も考えなければなりません。
組織への説明はデータ購入の方が圧倒的に簡単といった現実問題がそこにはあります。

