【地図デザイン入門】2D と 3D マップの使い分け – GIS でテーマに合った表現を選ぶための判断軸 –

はじめに

GIS の世界では、近年「3D」への注目が高まり続けています。ArcGIS OnlineArcGIS Pro でもシームレスな 3D 表現が可能になり、「これからは 3D の時代」「2D マップはもう古いのでは?」と考える方もいるかもしれません。

しかしながら実際の利用場面に目を向けると、ハザード マップや天気予報図をはじめ、現在も多くの場面で 2D マップが中心的な役割を担っています。すべての現場で、3D が 2D に置き換わっているわけではありません。

マップ表現を選ぶうえで大切なのは、新しさや見栄えではなく、伝えたいテーマや主題に対して最も適切な表現を選ぶことです。本記事では、2D と 3D のどちらが優れているかを論じるのではなく、「どのような場面で、どのように使い分けるべきか」を考えるための判断軸を整理します。

地図デザイン入門シリーズでは、マップ作成の基本知識やヒントをご紹介しております。関連リンクに関連記事をまとめていますので、ぜひご参照ください。

前提: 主題を決め、表現は後から選ぶ

これからご紹介する 4 つの判断軸は、2D と 3D の優劣を決めるチェック リストではありません。また、すべてのケースに一律で当てはまる絶対的な基準でもありません。

マップ表現を検討する際に最も重要なのは、「このマップで何を伝えたいのか」という主題です。主題が定まらないまま表現手法だけを先に選んでしまうと、情報が散漫になり、読み手にとって分かりにくいマップになってしまいます。

3D は魅力的な表現手法ですが、必ずしもすべての主題に適しているわけではありません。比較や分析には 2D、空間構造の理解には 3D、といったように、それぞれが得意とする領域が異なります。以降では、この前提を踏まえたうえで、2D と 3D を選ぶ際に検討したい 4 つの判断軸をご紹介します。

2D・3D を決める際の 4 つの判断軸

判断軸 ①: 高さ・深さは主題の中心か (3D にする必然性はあるか)

2D/3D を決めるうえでまず確認したいのは、3 次元の情報 (高さ・深さ) が主題にとって本当に重要かどうかです。

建物の高さや地形の起伏、データの高度や深度などがマップの理解や意思決定に直結する場合、3D 表現は大きな効果を発揮します。2D でも等高線やシンボル表現、ラベルなどで 3 次元情報を表現できますが、内容や読み手によっては上下関係を正しく読み取ることが難しくなる場合もあります。

下の例では熊本地震の震源ポイント データを可視化しました。3D マップを用いることで、震源の深さの違いをより直感的に把握でき、地震活動の空間的な広がりを理解しやすくなります。

一方で、もともと高さや深さの情報を持たないデータを扱う場合には注意が必要です。ArcGIS では、高さや深さと直接関係のない任意の値を用いてデータを立体的に表現することも可能ですが、そうした表現は見た目のインパクトが強い反面、かえって情報の理解を妨げてしまうことがあります。

下のマップは、令和 2 年度の国勢調査に基づく地区町村別人口を 3D で可視化したものです。一見するとダイナミックで目を引きますが、人口規模の違いや分布を読み取るという主題に対しては、必ずしも判読性が高いとは言えません。

3D を選ぶ前に、「高さ・深さがないと伝わらない内容なのか?」を一度立ち止まって確認することが重要です。

判断軸 ②: 距離・面積・分布を正確に比較したいか

距離や面積、大きさ、分布の違いを正確に比較したい場合、多くの場面では 2D 表現が適しています。2D マップでは、対象を真上から見下ろす視点で表現されているため、局所的な距離や角度、位置関係を安定して把握しやすく、分布や数値の比較に向いています。

一方、3D マップでは視点や角度によって見え方が変わり、遠近法の影響を受けます。その結果、同じ距離や大きさでも、手前と奥で印象が変わり、距離感がつかみにくくなることがあります。

下の例では、同じルートを 2D と 3D で表現しています。2D マップではルート同士の局所的な距離の差を一目で比較できますが、3D マップでは視点や角度が変わると、遠近法の影響によって距離感を正確に把握しにくくなっています。

3D は空間的な印象を伝えるのに優れていますが、地物を正確に比較することを目的とした場合には 2D の方が適しているケースが多いことを意識する必要があります。

判断軸 ③: 一覧性とスケール (全体を同時に見せる必要があるか)

地球規模のデータや広域的なテーマを扱う場合、「全体を同時に見せる必要があるか」という点も重要です。

地球全体を俯瞰し、分布や傾向を比較したい場合には、2D マップが有利です。平面に投影された 2D マップでは、地球上のすべての地点を一度に表示できるため、緯度帯・経度帯ごとの違いや地域間の偏りを比較しやすくなります。下のマップでは、衛星画像から全世界の夜間の都市活動を可視化しています。

一方、距離感や経路の意味を直感的に伝えたい場合には、3D の地球儀表現が効果的です。たとえば大陸間を結ぶ航空路は、2D では不自然に北へ曲がって見えることがありますが、3D で見ることで、地球の丸みを考慮した最短経路であることが自然に理解できます。

ただし、3D 地球儀では一度に見渡せるのは地球の半分に限られ、ふちに近づくほど歪みが大きくなります。その結果、画面上では見えていても、情報として正確に読み取れる範囲は意外に限られます。

このように地球規模の表現では、全体を同時に比較したいのか、それとも距離感や経路を直感的に理解してほしいのかによって、2D と 3D のどちらが適しているかが大きく変わってきます。

判断軸 ④: 可読性 (遮蔽・重なり・迷い) は許容できるか

3D 表現では、オブジェクト同士が重なり、情報が隠れてしまう「オクルージョン (遮蔽)」が発生します。これは 3D 表現の特性であり、欠点にも利点にもなり得ます。

たとえば、ある地点から「何が見えるか、見えないか」を示す可視解析では、遮蔽そのものが主題になります。

一方で、経路や範囲を単純に示したい場合、重要な情報が建物の裏に隠れてしまうと、読み手の理解を妨げることがあります。下の例では、東京駅周辺のバスルートを示していますが、3D 表現では建物の影にルートが隠れ、全体像を把握しづらくなっています。

また、3D 表現ではどこに注目すればよいのか判断しにくくなるケースもあります。建物や地形が立体的に表現され、さまざまな情報が同時に表示されることで、視線が分散し、読み手が迷ってしまうためです。

下の例では、東京駅周辺の避難所と医療機関を可視化しました。3D では 2D と比較して、建物モデルやラベルによって視線が分散しやすく、主題となる情報が埋もれてしまうことがあります。

遮蔽が「意味のある表現」なのか、「邪魔な要素」なのかを見極めることが重要です。

おわりに

本記事では、2D と 3D を使い分けるための 4 つの判断軸をご紹介しました。重要なのは、どちらが優れているかではなく、主題に対してどの表現が適しているかを判断することです。

高さや深さが主題の中心であれば 3D が有利ですが、数量や分布を把握したり、地球規模の傾向を一覧したりする場合には 2D が有効です。また、広域的なスケールや可読性、遮蔽といった特性も、表現の選択に大きく影響します。

技術の進歩により、3D マップは以前よりも身近な存在になりました。しかし、「作れること」と「伝わること」は同じではありません。マップを作成する際には、「この表現で、読み手に何を理解してほしいのか」という問いに立ち返り、主題に最も合った表現を選ぶことが大切です。

適切なマップ表現を選択して、より分かりやすく、伝わるマップを作製しましょう!

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