カルトグラムで統計データを可視化しよう-ArcGIS Pro 3.5 新機能-

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カルトグラムとは、特定の地域における数量的なデータを視覚的に表現するために使用される主題図の一種です。

ArcGIS Pro 3.5 の新機能として、連続カルトグラムの生成ツールにが追加され、カルトグラムが作成できるようになりました。 この記事では、ESRIジャパンが販売する ArcGIS Stat Suite の統計データやオープン データを使用して、ツールの使用例を紹介します。

連続カルトグラムの生成ツールとは

ツールの概要

連続カルトグラムとは、ポリゴンの共通の境界を維持しながら、ポリゴンのサイズと形状を歪め、ある属性フィールドの値を比例した面積のポリゴンとして表すものです。

例えば、アメリカ合衆国の州において、人口のカルトグラムを生成すると以下の画像のようになります。アメリカで人口の多いカリフォルニア州・テキサス州・フロリダ州・ニューヨーク州などでポリゴンが大きくなり、人口の少ないノースダコタ州やサウスダコタ州ではポリゴンが小さくなっていることがわかります。

連続カルトグラムの生成ツールを使用するには、Standard 以上のライセンス (Professional 以上のユーザー タイプ) が必要です。

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アメリカ合衆国の総人口のカルトグラム

[フローベース] と [拡散] オプション

このツールでは、[フローベース] と [拡散] のオプションが選択できます。[フローベース] は、元のポリゴンに対して歪みが多めで、処理は高速です。[拡散] は、元のポリゴンに対して歪みが少なめで、処理に時間がかかります。

例えば、日本の都道府県人口のカルトグラムをフローベースと拡散のオプションを使用して生成すると下の画像のようになります。日本の都道府県人口のカルトグラムにおいては、見た目上に大きな違いは発生しませんが、歪みの多さや処理速度によってオプションを使い分けてください。

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日本の総人口のカルトグラム

統計データをカルトグラムで表現してみよう

本セクションでは、日本全国の様々な統計データを使用してカルトグラムを生成していきます。その際のポイントや注意点を交えてご紹介します。

人口総数に相関関係があるデータのカルトグラムの例

日本において人口総数にある程度の相関関係がある統計データを使用すると、首都圏や都心部が大きく拡大している人口総数のカルトグラムと似たようなカルトグラムとなります。属性値が比例した面積で表されるので、他のカルトグラムと比較することや基準とするポリゴンの大きさを見ることで、より統計データへの理解が深まります。

例えば、下の画像は総人口のカルトグラムと 65 歳以上の要介護・要支援者数のカルトグラムを比較しています。兵庫県に着目してみると、65 歳以上の要介護・要支援者数のポリゴンは総人口のポリゴンに比べて大きく表示されています。つまり、総人口に対して 65 歳以上の要介護・要支援者数の割合が大きくなっていると推測できます。

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左画像: 日本の総人口のカルトグラム 右画像: 65 歳以上の要介護・要支援者の総数のカルトグラム

出力が大きく歪むカルトグラムの例①

下の画像は、ArcGIS Stat Suite の推計年収 1500 万円以上の一般世帯の総数を表したカルトグラムです。

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推計年収 1500 万円以上の一般世帯の総数のカルトグラム
  • 使用データ: ArcGIS Stat Suite の推計年収 1500 万円以上の一般世帯 (無加工)

上の画像では、東京都の数値が他の県に比べてかなり大きいことに影響され、東京都の南部の島しょ部が拡大し、北側に大きくずれています。表示のずれを抑えたい、という場合は、島しょ部のデータを削除してツールを実行すると下の画像のようにずれを軽減してカルトグラムが生成されます。属性値が比例した面積で表されるので、ポリゴンを削除するのは必ずしも適切であるとはいえませんが、島しょ部における 年収 1500 万以上の一般世帯が少ないと仮定するならば、データを削除してもよいともいえるでしょう。

A3_ArcGIS-Pro_Generate-Contiguous-Cartogram_over-15million_yearly-income_after
推計年収 1500 万円以上の一般世帯の総数のカルトグラム
  • 使用データ: ArcGIS Stat Suite の推計年収 1500 万円以上の一般世帯を一部加工して使用 (東京都島しょ部一部除外)

出力が大きく歪むカルトグラムの例②

下の画像は、e-Stat の作物統計調査令和 5 年都道府県別の生産量を表したカルトグラムです。参照しているデータには「事実不詳・調査を欠く県 (実際の数値は少ないと推測される)」が含まれており、フィールド値を任意のものに設定する必要がありました。カルトグラムで出力を表示するには参照するフィールド値が正の数である必要があります。負の数や 0 の場合は出力に表示されません。そこで、今回は試しに「事実不詳・調査を欠く県」の生産量を「1」として設定し、カルトグラムを生成してみます。

A3_ArcGIS-Pro_Generate-Contiguous-Cartogram_White-Radish-Production_1
だいこんの生産量のカルトグラム (生産量が「事実不詳・精査を欠く県」の値を「1」とした例)

上の画像のカルトグラムでは、境界を維持する仕組み上、「事実不詳・調査を欠く県」の生産量として「1」が入力された中国・四国地方や山梨県周囲などで大きく歪んでおり、わかりづらいものとなってしまっています。カルトグラムの形状をある度維持したい場合は、「事実不詳・調査を欠く県」の値を「NULL」や「0」を入力することを検討してください。

下の画像のカルトグラムは、「事実不詳・調査を欠く県」の生産量を「NULL」として設定し、カルトグラムを生成してみたものです。データがない地域がわかりやすくなっているかつ、歪みを抑えることができています。

A3_ArcGIS-Pro_Generate-Contiguous-Cartogram_White-Radish-Production_NULL.png
だいこんの生産量のカルトグラム (生産量が不明な場合 「事実不詳・調査を欠く県」の値を「NULL」とした例)

カルトグラムは、元のジオメトリーの位置や隣接するジオメトリーとの関係、フィールド値などに表示が大きく影響され、意図に沿わない表示になるときがあります。そのため、事前にデータをよく精査し、必要に応じて使用データを加工して使用することが求められます。

まとめ

本記事では、ArcGIS Pro 3.5 新機能の連続カルトグラムの生成ツールをご紹介しました。ポリゴンを歪めるという性質上、データの成形には注意が必要ですが、統計データを視覚的に強調して伝えたい場合に効果的な手法です。ぜひご活用ください。

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