ArcGIS Pro 3.5 では、3 種類のマルチスケール サーフェス解析ツールを使用できます。これらのツールを活用することで、地形サーフェスの特徴をスケールに応じて的確に捉えることができます。
本記事では、地形サーフェスとスケールの関係について、ArcGIS Pro のマルチスケール サーフェス解析ツールを用いてご紹介します。
記事内で紹介するツールの結果は 1 つの目安です。実際の結果は、設定したパラメーターおよび使用するデータによって変化します。
目次
地形サーフェスと空間スケールの関係
地形の連続的な変化を面的に表現したものを、「地形サーフェス」と呼びます。地形サーフェスは、水文解析や生態系解析など、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。これらの解析結果は、地形的特徴やそれらを取得する空間スケールに大きく依存します。
地形サーフェスが持つ地形的特徴は、解析に使用される空間スケールによって大きく変化します。粗いスケールでは、捉えられる地形的特徴は主に大きな尾根や谷などに限られますが、細かいスケールでは、大きな地形形状に加えて小さな凹凸や斜面といった、より詳細な特徴までを捉えることができます。
近年、こうした空間スケールごとの地形サーフェスの違いを利用した「マルチスケール解析」が注目されています。マルチスケール解析とは、1 つの空間スケールでは把握できないサーフェスの特徴を、複数の空間スケールで解析することで、最適な空間スケールを特定したり、異なる空間スケール間での解析結果の変化を測定したりすることで、広い視野で地形の特徴を理解するための手法です。
次のセクションで、ArcGIS Pro のマルチスケール解析で使用される各ツールについてご紹介します。
ArcGIS Pro のマルチスケール サーフェス解析ツール
ArcGIS Pro には、3 種類のマルチスケール サーフェス解析ツールがあり、各ツールの統計指標に基づいて「値ラスター」と「スケール ラスター」を作成できます。
値ラスターは、地形的特徴が顕著に現れている場所を視覚的に把握する際に役立つ出力ラスターです。格納される値は、定義した空間スケールで最も変化の大きい値が適用されます。
スケール ラスターは、地形変化の空間パターンを視覚的に把握する際に役立つ出力ラスターです。格納される値は、値ラスターの値が算出された空間スケールが格納されます。そのため、複数の空間スケールの中で最も大きい値 (特徴が良く現れたスケール) を把握することができます。
各ツールをご紹介する前に、空間スケールの定義について簡単にご説明します。
ツールで使用される空間スケールは、[最小近傍距離]、[最大近傍距離]、[基本距離の増分] の各パラメーターで定義します。[最小近傍距離] と [最大近傍距離] では、計算を実行する空間スケールの範囲値を設定し、[基本距離の増分] によってその範囲内で何段階の空間スケールを作成するかを定義します。
たとえば、セルサイズが 0.25m の場合に、[最小近傍距離] を 0.5m、[最大近傍距離] を 1m、[基本距離の増分] を 0.25m を指定すると 3 つのスケール (5 × 5、7 × 7、9 × 9) が作成されます。
マルチスケール サーフェス差分
このツールでは、最大差値を格納した「差分ラスター」と最大差値が得られたスケールを表示した「スケール ラスター」の 2 種類の出力ラスターが作成されます。
差分ラスターに格納される最大差値は、各スケールにおける平均標高からの最大差です。そのため、直接的な地形変化を捉えられる点が特徴です。
村落エリアでは、建物基礎の盛り土の様子が捉えられています。盛り土の縁といった同スケール内で変化の大きい箇所は値が大きくなり、盛り土の中心部のように変化の小さい箇所では値は小さくなります。山林エリアでは、スケール内変化の大きい山頂付近や谷底が色付けされています。さらに、傾斜のある個所は穏やかな変化値として捉えられています。
このように、マルチスケール サーフェス差分は、地形の特徴を把握したり、広域にわたる微細な地形変化を捉えたりといった形状把握において活用が期待できます。
また、解析に適したサーフェスの特徴がどのスケールで捉えることができるかを判断する際に役立ちます。たとえば、細かな地形変化を把握する場合には、小さいスケールが適切であり、広範囲の地形分布 (尾根と谷の境界など) を把握したい場合は大きいスケールが適切です。
以下は、マルチスケール サーフェス差分ツールにおける具体的な値の算出方法についてのご紹介です。各ツールの概要のみを把握したい方は、「マルチスケール サーフェス パーセンタイル」へ進みます。
マルチスケール サーフェス差分ツールの算出法
例として、5 × 5 のスケールを用いた図でご紹介します。
平均標高の算出には、「積分画像」が用いられます。積分画像の右下にあるピクセル値が対象スケール内の標高値の総和になるため、その値から効率的に平均標高が求められます。この平均値を各セルの標高値から差し引いた値が「差分値」です。ツールでは、空間スケール内のセルの中から最も大きい差分値 (最大差値) を抽出し、その値をセルに格納します。
マルチスケール サーフェス パーセンタイル
このツールでは、極端なパーセンタイル値を格納した「パーセンタイル ラスター」と極端なパーセンタイル値が得られたスケールを表示する「スケール ラスター」の 2 種類の出力ラスターが生成されます。
パーセンタイル ラスターに格納される値は、各空間スケールにおける最も極端なパーセンタイル値です。そのため、局所的に変化の大きいサーフェスの特徴 (尾根や谷底など) をより正確に把握できるのが強みです。
山林エリアでは、マルチスケール サーフェス差分と比べて、尾根や谷といった地形がより強調されています。また、これまで埋もれていた小さな尾根や谷も合わせて強調されるため、山間部の形状把握に役立ちます。河川エリアでは、川底と中州などの砂地が強調され、衛星画像では影で識別の難しい地形も把握することができます。
空間スケールによる違いも確認します。山林エリアでは、尾根や谷などを確認したい場合には、より大きい空間スケールが適切です。ただし、正確な地形の特徴 (山頂や稜線) を把握したい場合には、小さい空間スケールの方が良さそうです。河川エリアでは、小さい空間スケールの場合には、川底の微細な地形も捉えられています。しかし、単純な川底と中州の分類を行いたいといった場合には、少し煩雑な表現になってしまいます。その際には、大きな空間スケールを使用する方が適切です。
以下は、マルチスケール サーフェス パーセンタイル ツールにおける具体的な値の算出方法についてのご紹介です。次のツールの紹介は、「マルチスケール サーフェス偏差」からです。
マルチスケール サーフェス パーセンタイル ツールの算出法
例として 5 × 5 の空間スケールを用いてご紹介します。
極端なパーセンタイルの算出には、空間スケール内の中央セルの値より小さい値を持つセルの数と、空間スケール内の総セル数を使用してパーセンタイル値を算出します。各空間スケール段階で算出されたパーセンタイル値のうち、中央値である 50 から最も離れた値が「極端なパーセンタイル値」として選定され、その値がセルに格納されます。
マルチスケール サーフェス偏差
このツールでは、偏差値を格納した「偏差ラスター」とその偏差値が得られたスケールを表示する「スケール ラスター」の 2 種類の出力ラスターが生成されます。
偏差ラスターに格納される値は、各スケールにおいて標準偏差から求められた最大偏差値です。そのため、地形的特徴の複雑さや変化のばらつきを検出するのに優れています。
大雑把に地形変化の大きい箇所と小さい箇所を分類できるため、地形の複雑さや変化の度合いなどを把握する際に活用できます。他のツールと少し似ている点もありますが、マルチスケール サーフェス差分のような細かな輪郭や境界の把握や、マルチスケール サーフェス パーセンタイルのような正確な稜線の把握といった点では少し劣ります。
マルチスケール サーフェス偏差ツールの算出法
例として、5×5 の空間スケールを用いた図を掲載します。
マルチスケール サーフェス偏差ツールでは、空間スケール内のセル値の分散と標準偏差を算出し、空間スケール内の中央セルの偏差値が算出され、その値がセルに格納されます。
おわりに
今回は、ArcGIS Pro で利用可能な 3 種類のマルチスケール サーフェス解析ツールをご紹介しました。
広範囲の変化検出に適した「差分ラスター」、局所的な変化検出に優れた「パーセンタイル ラスター」、そして地形の複雑さやばらつきを捉える「偏差ラスター」を組み合わせることで、解析に最適な空間スケールの特定が可能になります。
これらのツールを活用し、目的に応じた地形解析の精度向上にぜひ、お役立てください。
ライセンスについて
本ブログでご紹介したツールの使用には、Creator 以上のライセンス (Professional Plus を除く) と ArcGIS Spatial Analyst エクステンションが必要です。詳細は以下のヘルプ ページをご参照ください。
| ご利用のユーザー タイプ | エクステンションの有無 | 
| Creator | Spatial Analyst が必要 | 
| Professional | Spatial Analyst が必要 | 
| Professional Plus | エクステンションの追加は不要 | 
- ライセンス: https://www.esrij.com/products/arcgis-pro/license/
- エクステンション: https://www.esrij.com/products/spatial-analyst/
関連資料
- ArcGIS Pro 製品ページ: https://www.esrij.com/products/arcgis-pro/
- ArcGIS Pro 逆引きガイド: https://doc.esrij.com/pro/users-guide/

