Esri 環境系コンテンツの最新動向 ― カーボンニュートラルと環境データ活用を支える ArcGIS Living Atlas

Esri が提供する ArcGIS Living Atlas of the World (以下、Living Atlas) には、環境・サステナビリティ分野での意思決定や分析を支える多様なコンテンツが集約されています。ESRIジャパンでは、こうした環境・気候データを ArcGIS 上で統合・分析し、排出量把握、再エネ適地評価、リスク評価などを支援するカーボンニュートラル GIS ソリューションを提供しています。

本ブログ記事では、環境分野の最新動向に加え、カーボンニュートラルや脱炭素経営を支えるデータ活用という観点から、意思決定や分析に活用できる Esri の環境系コンテンツを整理してご紹介します。

なお、本記事で紹介する Living Atlas の環境データ活用については第23 回 GIS コミュニティフォーラムにてカーボンニュートラルをテーマとしたセッションでも詳しく紹介予定です。
開催日時: 2026/5/27(水) 10:55~11:55
タイトル:ArcGISで実践するカーボンニュートラル ~排出量の可視化・分析から施策立案まで~

Living Atlas における環境コンテンツ

Living Atlas の「環境 (Environment)」分野では、以下のような幅広いテーマをカバーするレイヤーが提供されています。

  • 地球観測 (Earth Observations)
  • 海洋 (Oceans)
  • 標高と海底地形 (Elevation and Bathymetry)
  • 気候と天気 (Weather and Climate)
  • 土地被覆 (Land Cover)
  • エネルギー資源 (Energy Resources)
  • 土壌と地質 (Soils and Geology)
  • 水 (Fresh Water)
  • 生息域 (Habitat)
  • 種 (Species)

これらのコンテンツは、政府や自治体における環境施策立案や、企業のサステナビリティ対応・脱炭素戦略の検討において、データを根拠にした判断を支援する情報を提供します。

代表的な環境コンテンツ

ここでは、Living Atlas の環境コンテンツのうち、カーボンニュートラルや脱炭素経営での活用が想定されるものに絞り、代表的なコンテンツとデータ概要を整理します。なお、一部データは 2026 年 4 月時点でベータ版として公開されており、今後、公開の停止や URL が変更される可能性があります。

地球観測 (Earth Observations)

NASA と USGS が運用する地球観測衛星プログラムで、1980 年代から現在まで一貫した全球観測データにより、森林の現象や土地利用変化、地表面温度などの環境変化を時系列で把握できる基盤データです。この特徴を活かすことで、CO2 排出削減や吸収源管理といったカーボンニュートラルの取り組みが、実際に地表環境へどのような変化をもたらしているかを、時系列で検証することができます。

ブラジルの一部エリアにおける 2000 年 8 月 (左) と 2025 年 8 月 (右) の NDVI 画像の比較。2000 年では緑色だったエリアが 2025 年には大半が茶色になり、植生が大きく減少していることが分かる (使用アプリ: Landsat Explorer)

海洋 (Oceans)

衛星観測などから得られた情報を利用して作成された全球海面水温 (SST) の時系列データで、海洋温暖化の把握や気候変動が海洋・大気に与える影響評価の基盤情報として活用されます。1985 年から現在に至るまでのデータを提供します。

2025 年 7 月 14 日時点の日本近海の海面水温 (使用レイヤー:Sea Surface Temperature (SST))

標高と海底地形 (Elevation and Bathymetry)

Terrain: World Elevation: https://livingatlas.arcgis.com/ja/browse/#d=2&q=World%20Elevation

全球規模の数値標高モデル (DEM) で、複数のデータソースを統合し、地形解析や洪水・浸水リスク、再生可能エネルギー立地評価などの基盤となる標高情報を提供します。

気候と天気 (Weather and Climate)

将来の気温や降水量の変化を高い解像度で提供する気候データです。スイス連邦森林・雪・景観研究所 (WSL) が、全球の気候モデル (CMIP6) をもとに、地形の影響を考慮して約 1km 解像度にダウンスケーリングしたデータを提供しています。過去から現在の気候データと将来予測を比較することで、気候変動が地域環境や暮らしに与える影響を直感的に理解でき、生態系、土地利用、リスク評価など幅広い分野で活用されています。

2055 年の年平均気温の将来予測 (SSP585 シナリオ = 高排出シナリオ) (使用レイヤー:CHELSA Bioclimate Projections – Annual Mean Temperature (Bio1))

WBGT (湿球黒球温度) は、気温・湿度・日射・風の影響を統合した暑熱ストレス指標で、熱中症リスク評価や屋外作業、都市環境における気候変動適応策の検討に利用されます。Global Wet Bulb Globe Temperature Projections レイヤーは、CMIP6 の複数気候モデルと ERA5 再解析を用いて作成された、全球の WBGT 予測データです。また、リアルタイムな WBGT データとして、環境省の「熱中症予防情報サイト」で公開されている暑さ指数をもとに ESRIジャパンが加工・提供しているデータもありますが、2026 年 4 月時点では、同サイトの運用終了に伴い更新を停止しています。

Global Warming Level 1.5:産業革命前と比べて全球平均気温が長期的に 1.5 ℃上昇した状態における、1 年の 222 日目 (8 月 10 日ごろ) の WBGT 予測データ (使用レイヤー:Global Wet Bulb Globe Temperature Projections)

土地被覆 (Land Cover)

Sentinel‑2 衛星画像 (10m 解像度) をもとに、深層学習を用いて作成された全球土地利用・土地被覆 (LULC) データです。2017 年以降の土地被覆の変化を毎年一貫した手法で把握でき、都市化や農地変化などの年次変化を詳細に可視化できます。

インドネシアのジャカルタ周辺の土地被覆 (使用レイヤー:Sentinel-2 10m Land Use/Land Cover Time Series)

エネルギー資源 (Energy Resources)

World Bank Group が主導し、衛星データに基づいて算出された日射量や太陽光発電の発電ポテンシャルを、全球一貫の手法で提供するデータです。太陽光発電プロジェクトにおける適地評価や導入に向けた初期検討に活用されます。

太陽光発電の年平均ポテンシャル (使用レイヤー:Global Solar Atlas – PV Power Potential (Annual))

World Bank Group とデンマーク工科大学 (DTU) が提供する全球規模の風況データで、風速や風力発電ポテンシャルをもとに、風力発電導入に向けた適地評価や初期検討を行うための基盤情報として活用されます。

地表から高さ 50m における風力エネルギー密度 (使用レイヤー:Global Wind Atlas – Power Density)

土壌と地質 (Soils and Geology)

ISRIC (World Soil Information) が提供する全球規模の土壌データで、機械学習を用いて推定された土壌の物理・化学特性 (有機炭素量、粒径組成、pH など) を約 250m 解像度・複数の深度で提供します。農業分野での土地評価や環境評価、炭素循環解析などにおいて、基盤情報として活用されます。

深さ 15-30cm における土壌中の有機炭素密度 (使用レイヤー:World Soils 250m Organic Carbon Density)

水 (Fresh Water)

世界資源研究所 (WRI) が提供する全球水リスクデータで、水ストレスや水質、規制・評判リスクなどを流域単位で統合的に評価しています。将来の気候変動シナリオを含めた水リスクの把握を通じて、企業や自治体における意思決定を支援します。詳細については、Esri 社のブログ:Global Water Risk from Aqueduct in Living Atlas (英語) をご確認ください。

将来の水リスク指標 (年平均) (使用レイヤー:Aqueduct 4.0 Water Risk)

生息域 (Habitat)

生態WWF (世界自然保護基金) が定義した全球の生態地域データで、植生や生物多様性の分布に基づいて地球を生態学的に区分し、保全計画や生物多様性評価の基盤情報として広く利用されています。

種 (Species)

GBIF (Global Biodiversity Information Facility) が提供する全球の生物出現記録データで、博物館標本や市民科学による観測結果を含む膨大なデータを通じて、種の分布や生物多様性の把握・分析を支援します。GBIF データには、iNaturalist Observations のデータも含まれます。

ArcGIS Pro から GBIF のデータに直接アクセスできるツールが提供されており (Download GBIF Species Occurrence Data in ArcGIS Pro)、種分布の把握や生息環境の変化分析を効率的に実施することが可能です。これらの分析は、TNFD 対応や自然資本評価の基礎情報としても活用が期待されます。

1km 解像度で推定されたハチドリ類の種数 (種多様性) の分布

Global Hexagons による統合分析と TNFD 対応

近年注目されている Global Hexagons (H3) は、均一な六角形グリッドを用いることで、生物多様性や土地利用、炭素、人口など、性質の異なる環境データを同一単位で統合・比較できる仕組みです。Living Atlas では、20 以上の主要環境データを H3 グリッドに集約し、複数スケールでの分析を可能にしたデータを提供しています。詳細については、Esri 社のブログ:Introducing Global Biodiversity and Conservation Hexagons (英語) をご確認ください。

この仕組みにより、

  • 地域単位での自然資本の把握
  • 事業活動と環境リスクの空間的な関係整理
  • TNFD におけるリスク・機会評価 (LEAP の Locate 〜 Evaluate)

を、統一された地理単位で効率的に実施できます。Global Hexagons は、TNFD 対応を支える環境データ統合のための分析基盤として活用されています。

六角形グリッド内の自然保護エリアの割合 (使用レイヤー:Global Hexagons for Biodiversity and Conservation)

おわりに

Esri の環境系コンテンツは、単なる環境データ提供にとどまらず、カーボンニュートラルや脱炭素経営を支える意思決定基盤へと進化しています。Living Atlas を活用することで、環境・気候・自然資本に関する情報を統合的に捉え、実践的なサステナビリティ施策へとつなげることが可能になります。これらのデータは、環境リスクや影響を空間的に把握し、根拠ある意思決定を行うための重要な基盤となります。

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