Bill Thompson 氏は、テネシー州最大の水道事業者が顧客にサービスを効率的に提供することを妨げる深刻な問題に頭を悩ませていました。
Nashville の北に位置する White House Utility District (WHUD) のゼネラルマネージャーである Thompson 氏は、常に実践的な経営者であることを自負していました。Thompson 氏は、自らが変革を受け入れるリーダーであり、従業員が上司に頼ることなく意思決定できるようになることを望んでいました。
しかし、ただ変革を受け入れるだけでなく、Thompson 氏は常に変革を先取りすることを心がけていました。1992年、地理情報システム (GIS) が水道業界では珍しかった頃、Thompson 氏はこの技術の可能性を認識し、GIS の導入を開始しました。WHUD の日々の業務や請求業務を管理する顧客情報システム (CIS) と連携した位置情報システムにより、従業員が意思決定を行うために必要な情報と自信を得ることができると期待したのです。
ある時、Thompson 氏は問題は単に事業の成長を管理することではなく、WHUD がどのように事業の成長を管理しているかにあることに気づきました。テクノロジーが邪魔になっていたのです。従業員の能力を高めるためのツールがかえって障害となり、従業員の足かせとなっていたのです。そこで彼は、これまで何度も行ってきたことを実行しました。業界の常識にとらわれない発想で、問題を解決するための革新的な方法を模索し始めたのです。
Thompson 氏は、新しい CIS プラットフォームを研究し、ベンダーと打ち合わせを開き、電力会社が直面している事業の成長を管理するために役立つソリューションを探しました。しかし、Thompson 氏はすぐに、どのソリューションも十分ではないことに気づきました。思い描いていたようなソリューションがなかったのです。
Thompson 氏は、「このままではいけないと思い、病んでしまいました。」と語ります。それでも、彼は頭の中で問題を整理し続けました。
そしてあるとき、突然、霧が晴れたのです。
目次
革新的な洞察が全社的な変革を促す
Thompson 氏は、組織の力学を変えることになる2つの洞察を得ました。
まず、部門を越えてデータを共有したいという希望とは裏腹に、WHUD では情報のサイロ化が進んでいることに気づきました。テキストベースの CIS 課金ソフトウェアと、地図ベースの GIS (パイプ、ポンプ、人員、その他の設備の位置と状態に関する情報を含む) が、別々に存在していたのです。この 2 つのシステム間でデータが連携されることはほとんどありませんでした。従業員はこの問題を回避しようとしましたが、問題解決への労力は、システム間の接続と従業員間のコミュニケーションの欠如によって妨げられていました。
「システムのために人が働くのではなく、人のためにシステムが働かなければならない」とThompson 氏は言います。「『技術的にできないからできない。』と言われるのは嫌でしょう」。
組織のチェンジマネジメントには、リーダーシップのコミット、すべてのレベルの従業員の関与、そして絶え間ないコミュニケーションが必要です。変革は、戦略主導で組織のトップから生まれます。
Harry Hertz氏、NIST の Baldrige Program
この問題は、会社の成長を効果的に管理することから始まり、顧客への対応に至るまで、すべてに影響を及ぼしていました。Thompson 氏は、顧客からの電話に対応する WHUD の担当者が、組織の顔であることを知っていました。「電話に出た人は、その人しか知りえないのです。その担当者であれば、サービスの疑問や問題を解決できるはずです。しかし、ほとんどの場合、カスタマーサービス部門は組織の他の部分から切り離されていて、意思決定ができないのです。その結果、従業員は顧客支援や意思決定の能力に限界を感じていました。」
「GIS と CIS は、基本的に互換性がありませんでした」と Thompson 氏は言います。「つまり、片方からデータを取り出して分析し、それを使ってもう片方で意思決定する必要があったのです。その結果、多くの時間を失い、多くの顧客や従業員をイライラさせてしまっていたのです」。
Thompson 氏は顧客サービスの観点からシステムを見たとき、2つ目の洞察を得ました。
Thompson 氏は、「当社の従業員はみんな、システムで起きているオペレーションの状況や、現場作業員の物理的な位置に関するリアルタイムの情報を必要としています」と話します。「その時、私たちはまったく反対のことをしていることに気がつきました。私たちが行うことは、すべてロケーションベース、設備ベースです。GISはその原動力となるべきものなのです。」
常識にとらわれず、効率とコストの低減を追求する
ほとんどの公益企業にとって、顧客情報システムはユーザーフレンドリーであるかどうかにかかわらず、主要なデータベースです。しかし、カスタマーサービス担当者は、ほとんどの問題を解決するために、現在の請求状況以上のことを知る必要があります。顧客の所在地を示す地図と保守・修理履歴の詳細、さらにその地域にいる現場作業員の位置と現在の作業がいつ終わるかを確認する必要があります。
これまで、潜在的な問題を解決するために何時間も情報を待っていた現場作業員やその他のスタッフは、機器の状態やメンテナンス履歴に関する関連データを数分で収集できるようになります。新しい漏水検知ソフトウェアは GIS と統合され、水道会社は小さな漏水を発見し、大きな問題に発展する前に素早く修正することができるようになりました。
GIS を中心としたユーザーフレンドリーなシステムの構築と導入には、約 3 年の歳月を要しました。企業向けソフトウェアの導入を管理したことのある経営者は、このような変革に求められるもの、すなわち、健全な計画、忍耐、そしてチェンジマネジメントへのコミットメント、を理解しています。
Thompson 氏、WHUD、そして彼らがサービスを提供するコミュニティにとって、この努力は大きな収穫となりました。新しい技術が導入されたことで、WHUD はもはや設備の緊急点検や、人口増加に対応するための債券発行を検討する必要がなくなりました。そのため、WHUD は、少なくとも11年間は社債の発行を控えました。その間の利払いは 600 万ドルを超えていたでしょう。さらに重要なのは、これらのシステムの統合により、WHUD は組織全体でデータの連続性を獲得し、Thompson 氏とそのチームがより積極的な戦略立案を行えるようになったことです。
チェンジマネジメント計画に盛り込むべき内容
経営者は、チェンジマネジメント計画の以下の構成要素を考慮する必要があります。
・コミュニケーション計画
計画を発表し、従業員に変更点を伝える。
・スポンサーロードマップ
指導者やメンターが指導、助言、強化するための方法とポイントを示します。
・コーチング計画
新しいスキルを確実に習得するための講習、グループディスカッション、実践、レビュー。
・抵抗勢力への対処計画
懐疑的な人、考え方を変えない人、新しい仕事のやり方を学ぼうとしない人に対処する。
懸念に耳を傾け、支援を提供し、個人的な懸念が生じた場合はそれに対処する。
変革に対応するための人材育成
WHUD が技術面と業務プロセスの刷新を計画しているとき、Thompson 氏は WHUD の 100 人の従業員の間に多くの懸念があることを知っていました。仕事はあるのだろうか?もし適切なスキルがなかったらどうなるのだろうか?もし、すぐに習得できなかったら…?
長期的には、業務をアジャイルにできなければ、水道業界も含めて、柔軟性がなく、素早く適応できなければ、時代遅れになり、事実上死んでしまう。
Bill Thompson 氏、WHUD
噂が噂を呼び、士気が下がり、さらに非効率になり、重要なサービスを提供する公益事業にとって悲惨なことになりかねない瞬間でした。しかし、Thompson 氏は WHUD のチームを全面的に信頼し、彼がいつも大切にしている同じ目標に導きました。「私はすべての従業員に彼らが自らの業務を全うし、自らが意思決定者になるために必要なだけの情報を与えたかったのです。」
チェンジマネジメントの戦略やトレーニングプログラムを準備する中で、専門家が推奨する主要なポイントである「変革の準備」「変革の管理」「変革の強化」を直感的に感じ取ることができたといいます。そして、従業員に対して正直であることです。
GIS ベースのシステム導入が近づくと、彼はチームに安心感を与えました。Thompson 氏は従業員たちに「私たちは業務のやり方を変えていくつもりです」と語った。「教育が必要な人、スキルが必要な人、どんな人であれ、私たちはそのための支援をするつもりです。私たちはこれを実行し、新しい方向に転換するつもりであることを理解してほしいのです。」
従業員は既存システムが非効率になっていることは分かっていました。それでも、彼らはその変革を心配していました。
WHUD で 13 年間勤務しているカスタマーサービスを担当している Tammy Moses 氏は、新しいシステムは新たな障壁を意味するのだろうかと疑問に思っていました。タイムリーで使い勝手がよく、顧客を満足させることができるのだろうか?「業務を遂行するのにより時間がかかることになるのだろうか。」
WHUDで5年間勤務した現場作業責任者の Levi Wyatt 氏は、新しいソフトウェアに懸念を抱いていました。「業務フローの遂行にどれだけの時間がかかるのだろう」と彼は考えていました。「現場作業員の業務は慌ただしく、無駄な時間を過ごすことはできません。」
チェンジマネジメントの戦略に沿って、Thompson 氏はメッセージを繰り返しました。「私たちは変わらなければならない。私は変わらなければならない。でも、私たちはあなたがたを支援します。」
(チェンジマネジメントが組織に与える影響についてはこちら (英語) をご覧ください)
職場の文化を変える
Thompson 氏は、他の導入事例から抵抗や混乱が雰囲気を悪くすることを目の当たりにしていました。それを防ぐために、Thompson 氏と経営陣は、おおがかりな準備と過剰ともいえるコミュニケーションを行いました。2年間、ほぼすべての月例会議で、彼はそのことについてふれました。「導入の準備が整う頃には、従業員は私の話を聞くのに疲れ、導入に踏み切ることに興奮していました。」
水道業界では、たとえ業者が1社しかなくても、他の業界と同じように優れたサービスを提供するよう努力しなければならないのです。
Bill Thompson 氏、WHUD
技術革新が進み、職場文化を変える取り組みがより正式なものになり始めたとき、Thompson 氏は変革を成功させるための重要な原則に従いました。新しい業務フローを計画する際に、あらゆる部門から利害関係者を参加させたのです。彼は移行による業務プロセスへの影響の大小にかかわらず、組織のあらゆる部門から代表者を集めた委員会を結成しました。
その中には、コーチや非公式なカウンセラーとなり、「研修はスキルを強化するためのもので、弱点を見つけて罰するためのものではない」と同僚に言い聞かせる従業員もいました。
Thompson 氏は、新しいシステムを構築するための最適な方法を模索する中で、毎日このシステムを利用する人たちからのフィードバックを求めました。「もし、しっくりこない、うまくいかないと感じたら、教えてください。私やコンサルタントが考えるベストではなく、あなたがたにとってベストでなければならないからです。」
現場作業責任者である Levi Wyatt 氏は、GIS の講師陣に感銘を受けました。「チームは辛抱強く、私たちが必要とする情報や見たい情報を本当に理解するよう心がけてくれました。さらに、現場へも同行し、すべてが問題なく動作していることを確認してくれました。」
また、Wyatt 氏は変革のメッセージが徐々に彼らの日常業務の一部になっていく様子も気に入っていました。組織の中で同じような変革に直面している従業員への彼自身のメッセージです。「この学習曲線とそのための時間や努力は、長い目で見れば、私たち全員、そしてお客様に大きな利益をもたらすでしょう。」
変革と投資利益率
企業が変革をうまく管理すればするほど、新しい技術やソフトウェアへの投資回収が早まることが研究によって明らかになっています。優れたチェンジマネジメントプログラムでは、135%の投資利益率は珍しいことではありません。
チェンジマネジメントのコンサルティング会社である Prosci 社の調査によると、成功のための最も重要な要素は、そのプロセスを通じて目に見える形で、声を上げ、関わり続ける、貢献意欲の高い幹部や経営層 (英語) の存在です。Thompson 氏は何もしていないわけではなく、従業員が求めていた共感を示していたのです。
「もし、私たちが無理と感じたら、Bill はいつも必要なら一時停止ボタンを押して、少し距離をとってみるようにと言ってくれました。」と、オペレーションマネージャーの Rocky Reecer 氏は語ります。
Thompson 氏は、さらに率直にこう言った。「私は従業員全員に、『いいか、みんなイライラするだろうし、怒るかもしれない。私だってそうだ。でも、私のオフィスに来て、それをぶちまけてほしい。クビにすることはない。私たちは支援するつもりですが、みんなが能力を発揮できないような形で支援するつもりはありません。』と言いました。」
そしてもちろん、やる気のある従業員でも、学ぶペースや方法はさまざまです。WHUD の管理職は、ある個人が困っているとき、グループトレーニングのセッションを開き、その人をそっと見守りました。Thompson 氏は時間がかかったとしても、それが正しいことであり、現実的なことだと考えていました。その結果、効率は上がり、チームの絆は深まりました。
Thompson 氏は言います。「彼らは私たちが雇うに足る人材です。彼らは投資する価値がある人材であるはずです。」
Prosci 社の調査によると、潜在的な破壊力を持つプロジェクトに、人に焦点をあてたチェンジマネジメント計画を組み合わせると、目標を達成する可能性が最大6倍高くなることが分かっています。
従業員の変革の段階
・意識改革
Thompson 氏と彼のチームは、来るべき変革の範囲を組織全体に周知しました。
・欲求
WHUD の管理職は、新しいスキルを身につけることで、業務フローがより効率的になり、従業員の価値も上がることを何度も強調しました。
・知識
管理職は、グループやコーチのもとで誰もが自分のペースで学べるというメッセージを繰り返しました。
・能力
従業員は、新しい行動特性を得るすることは、新しいシステムで働く能力を示すことだと理解しました。
・強化
従業員は賞賛を受け、仕事に対して自信がつきました。
新しいシステムでの業務
GIS とロケーションインテリジェンスを全従業員の業務フローの中心に据えることで、WHUD は劇的な変化を遂げました。
15 年間働いてきた Reecer 氏は、新しい GIS がより正確な地図をもたらすことにとても喜んでいました。
「iPadを持って現場に行くと、何かの設備の真上に立っていても、足元にあるのがわかるようになりました。GIS の改善により、検索や地下掘削の手間が省けより効率的になりました。」
この効率化により、管理者は漏水検知に多くの時間を割くことができるようになり、会社は年間数十万ドルを節約することができました。
チェンジマネジメントの観点から、私は常に新しいことやより良いことがあれば、それを実行に移すタイプです。ビジネスとお客様にとって最善の方法を考え出すのです。
Bill Thompson 氏、WHUD
また、GISを中心としたシステムにより、WHUD ではロケーションインテリジェンスの力を新たな形で活用することができたと Thompson 氏は言います。「 GIS ですべての車両をリアルタイムで追跡しているので、カスタマーサービスの担当者は、誰かを派遣する必要がある場合に、誰が一番近いかを確認することができます。」
現在、お客様が WHUD に電話をかけると、電話を受けた担当者は 1 つ目の画面でお客様のデータを確認し、2 つ目の画面でお客様の位置を GIS ベースのマップで見ることができます。つまり、情報のサイロはなくなり、リアルタイムのロケーションインテリジェンスに取って代わられたのです。
「お客様のメーターやボックスの位置、敷地のレイアウト、上・下水道管など、必要な情報がすべて手に取るようにわかります」とカスタマーサービス担当の Tammy Moses 氏は言います。
教訓-変革に終わりはない
新しいシステムや業務プロセスを導入し、WHUDの 100 人の従業員の再教育を終えるまでに 3 年以上かかりました。
変革に相対することが難しく、このプロジェクトを終えることができたことを喜んでいるThompson 氏も、その努力を忘れてはいけないとわかっています。
「すべてのプロセスに目を通すことが重要です」とThompson 氏は言います。「状況は変わっていくので、終わったあとも 2 年に 1 度くらいは見直す必要があります。そして、そのプロセスを文書化し、何が起きているのかを把握する必要があります。」
そして、成し遂げるべき新たな変革があるとき、彼はこうアドバイスします。「隠し事をせず、正直に話すことです。最初から何が目標なのかを伝えておくことです。なぜなら、ビジネスがアジャイルでなければ、水道ビジネスも含めて、柔軟性がなく、素早く適応できなければ、時代遅れになり、事実上死んでしまうからです。」
この記事は WhereNext のグローバル版に掲載されたものです。