「ArcGIS活用法」アドベントカレンダー初日の記事は ESRIジャパンから投稿します。
目次
はじめに
ArcGIS Desktop(ソフトウェアの名称としては ArcMap と表記します) は、それまで主力製品であった ARC/INFO に変わる新しい製品として 1999 年に登場しました。当初の ArcMap は「ArcInfo Destkop」という製品名として登場しましたが、2001 年にリリースされたバージョン 8.1 にて、ArcInfo Desktop の高度な GIS 機能と、ArcView GIS の容易な操作性とを統合的に継承する形で ArcGIS Desktop という製品名となりました。ArcGIS Desktop は高い汎用性を持つデスクトップGIS ソフトウェアとして機能強化されてきましたが、2020 年にリリースされた、ArcGIS Desktop 10.8.2 が最終バージョンで、2026 年 2 月末でリタイアとなりサポート終了となります。
サポートが終了する ArcGIS Desktop に代わる次世代のデスクトップ GIS ソフトウェアとして、2014 年に ArcGIS Pro バージョン 1.0 が登場しました。ArcGIS Pro は、Web GIS の時代を見据え、ArcMap よりも新しいテクノロジーで再設計して開発されました。こちらもバージョンアップを重ねるごとに機能強化され、現在、ArcGIS Pro の国内サポートの最新バージョンは 3.3 となっています。
登場から早 10 年が経ち、機能も成熟された ArcGIS Pro ですが、弊社が 2023 年に実施したアンケート調査によると、ArcMap から ArcGIS Pro への移行されていないユーザー様は一定数あり、その理由として大きな割合を占めていたのが、次の理由でした。
- 現在の業務は ArcMap で事足りている
- ArcGIS Pro の操作性に慣れるのが大変
ソフトウェアの移行にかかる人的コストが懸念されています。普段から使い慣れているソフトウェアを別のソフトウェアに切り替えるには大きなハードルです。
ちなみに、最近入社した新卒入社の社員のような、学生時代に ArcGIS Pro で GIS を学んだ人たちや、他分野から弊社に転職されてはじめて GIS に触れた社員に話を聞くと、「ArcMap はどのツールバーやアイコンが何の機能なのかわからないので ArcGIS Pro の方が扱いやすい」という回答でした。つまり、どちらかのソフトが使いやすい/使いにくいのではなく、慣れの問題であるといえます。
この記事では、ArcGIS Pro への移行をコストを最小限に抑える方法として、ArcMap から ArcGIS Pro への操作性に慣れるための考え方の違いと、ArcGIS Pro を ArcMap ライクに使う方法についてご紹介します。SDK(開発機能)の移行に関する課題もありますが、今回の記事では割愛いたします。
筆者は学生時代に ArcMap バージョン 8 から本格的に GISソフトウェアを使い始め(ArcView GIS 3.2 も少し触りました)、ArcGIS Pro は(当然ですが)仕事の都合上バージョン 1.0 から使っています。Microsoft Office も 98 からのユーザーなので、バージョン 2003 から 2007 のリボンUI への変更も経験しています。当時は賛否両論あったリボンUI ですが、筆者は積極的にリボンUI を受け入れようとした方なので、リボンUI に対する印象は執筆者の主観もあることをご了承ください。
ArcGIS Pro へ移行する理由と方法
まずはこちらの動画をご覧ください。
序盤では ArcGIS Pro が登場した理由が説明されていますが、ArcMap の基本的なテクノロジーは COM と呼ばれるもので開発された 32bit アプリです。64bit OS が主流として置き換わった時代では、ArcMap のバージョンアップだけでパフォーマンスの向上にも限界がありました。そのため、ArcGIS Pro では .NET のテクノロジーを使用した 64bit アプリケーションとして刷新し、ArcGIS Online に代表される GIS ポータルとの親和性が向上しました。
パフォーマンスの向上だけではなく、操作性やマップ ドキュメントの考え方にも変更がありました。この変更は大きな影響があったと考えます。
リボン インターフェイス
リボン インターフェイスとは、2007年に登場した Microsoft Office 2007 にてはじめて実装された UI/UX で、主要なマイクロソフト社製品や、他社の Windows 用ソフトウェアに組み込まれてきました。従来のメニューとツールバーに代わる操作性で、より直感的に使いたい機能へアクセスできる仕組みを提供するものでした。
たとえば、ArcMap 10.8.2 が持っているすべてのツールバーを表示すると、次のような画面になります。FullHD (1,920*1080) のディスプレイ上に表示しているのでさほどマップの領域が占有されていないように見えますが、2000年代主流だった XGA (1,024*768) のディスプレイに表示するとツールバーでマップの領域が見えなくなってしまう状態になりました。
ArcMap にはツールバーには約 300 のボタンやツール(これらを総称してコマンドといいます)が配置されていますが、この他にも隠れたコマンドすべてを数えると約 1,000 以上あります。それだけ ArcMap には豊富な機能が備わっているといえますが、すべてのコマンドの場所や機能を把握している人はおそらくいないでしょう。
一方、ArcGIS Pro では、すべての機能がリボン インターフェイスとして刷新されました。従来の「メニュー」に代わり「タブ」が並び、タブをクリックすると、コマンドの一覧が切り替わります。固定の領域内にすべての機能がアイコンと名称で示されます。
マップ ドキュメント
ArcMap は、一連のマップを管理するファイルとして「マップ ドキュメント (*.mxd)」が使われます。このファイルは、複数のマップが管理できるものの、レイアウトは1つのみしか作成できませんでした。つまり、マップ ドキュメントとは 1 つのレイアウトを作成するためのファイルということができ、レイアウトに配置するマップをそれぞれ「データ フレーム」として作成してきました。
ちなみに、なぜ ArcMap では「マップ ドキュメント(ファイル)」というのに、拡張子は “*.mxd” なのでしょうか。これは ArcMap 開発当時の名残だそうです。ご興味がある方は「MXDの由来」で検索してみてください。
ArcGIS Pro プロジェクトの考え方
ArcGIS Pro は、 一連のマップやレイアウトなどを管理するファイルを「プロジェクト」といい、拡張子は *.aprx です。ArcGIS Pro のプロジェクトでは、複数のレイアウトを格納できるようになりました。また、Web GIS の時代では紙や PDF を前提としているレイアウトは必要がないケースも増えてきましたので、1 つのプロジェクトにはマップやレイアウトが複数作成でき、マップのみでレイアウトを持たない作り方も可能となりました。
その他に、ArcMap 起動時には Windows のドキュメント内に作成される、Default.gdb というデフォルト ジオデータベースを参照していました。デフォルト ジオデータベースはマップ ドキュメントごとに変更することはできますが、これが ArcGIS Pro では、プロジェクトごとに新規のデフォルト ジオデータベースを作成するのが既定値となりました。この操作性が、「簡単にデータだけをマップで確認したい」というニーズに対して、煩わしいと思われる原因かもしれません。こちらの解消方法は、次の見出しで解説します。
ArcMap ライクに使うコツ
できる限り ArcMap の操作性を変えたくない人に対する解決方法を 4 つご紹介します。
クイック アクセス ツールバーの活用
リボン インターフェイスには、「クイック アクセス ツールバー」という、従来のツールバーに似た、コマンドを並べて表示できる機能があります。
クイック アクセス ツールバー内のコマンドはカスタマイズできますので、よく使うコマンドを並べておくと操作性が高まります。また、ArcGIS Pro も、標準のタブにはない隠れたコマンドがたくさんありますので、使いやすいものを探してみてください。
アプリケーション起動時にプロジェクト テンプレートを使用しない
ArcMap は、アプリケーションを起動して、一連のマップを操作した後に「マップ ドキュメント」としてファイルに保存しますが、ArcGIS Pro では、アプリケーションを起動した直後、最初に「プロジェクト」の作成が促されます。筆者も最初はこの操作に煩わしさを感じましたが、現在のバージョンではプロジェクト テンプレートを使用せずに起動したり、常に同じプロジェクトを開いたりできるようになっています。
プロジェクトの保存は後からでよい場合、もしくはデータの確認のみでプロジェクトの作成が必要ない場合は、[プロジェクト] タブ → [オプション] → [一般] → [ArcGIS Pro の起動] から、「プロジェクト テンプレートなし」を選択してください。
手動による編集セッションの制御
ArcMap には、「編集セッション」という、データを作成・更新・削除できる状態を管理する機能があり、[エディター] ツールバーで操作していました。ArcGIS Pro では、内部に編集セッションは存在しているものの、編集の開始を宣言することなく、フィーチャの作成や更新ができるようになりました。これは操作の手間が少なくなった反面、不意にフィーチャが更新されてしまう煩わしさがあります。
ArcGIS Pro 2.6 から、オプションの設定で、編集セッションを手動で制御できるようになりました。詳しくは次の記事をご覧ください。
ツールバー ライクなリボン インターフェイスを使う
まもなく国内でもサポートが開始される、ArcGIS Pro 3.4 から、シンプルなリボン インターフェイスへの切り替えができるようになります。ArcMap のツールバーライクな、アイコンのみのコマンド表示に変更でき、リボンのタブ領域をスリムにできます。
おわりに
ArcMap から ArcGIS Pro へ移行するための方法として、2 つの側面で解説しました。
- ArcGIS Pro プロジェクトの考え方
- 画面の操作性を ArcMap へ近づける方法
ArcMap を長年使っていて、Windows の使用歴い筆者は、リボン インターフェイスのデスクトップ GIS ソフトウェアを待ち望んでいたので、ArcGIS Pro の移行には違和感はありませんでした。当初のバージョンでは機能が不足していましたが、現在のバージョンでは ArcMap を必要とするケースはなくなってしました。Microsoft Office 2007 で登場したリボン インターフェイスは、Windows 8 から OS にも実装されていきましたが、Windows 11 で廃止され、シンプルなインターフェイスに移行しはじめています。ArcGIS Pro も次のバージョンでシンプルなインターフェイスが実装され、トレンドに追従していることが伺えます。
ArcGIS Pro の標準インターフェイスを使い始めることに躊躇されている方は、この記事を参考にしていただきながら、まずは触れてみてください。