ArcGIS Pro は、GISデータを分析したり、地図をきれいに表現したりすることができるデスクトップ GIS アプリケーションですが、地図や GIS を理解するための教育ツールとしても活用できます。今回は ArcGIS Pro を使って「方位」について考えてみます。
目次
方位とは
方位は小学校の社会科でも習いますので、方位について意識して考える機会は少ないと思います。狭い範囲の地図を読む際は、直角に交わる東西南北の 4 方位で考えればよいのですが、日本から別の国の方位、といったように、広い範囲で方位を考えると、少し難しくなります。
方位の定義は、次のようになります。
方位とは、ある場所(起点)における、基準の方向に対する角の大きさ
基準の方向とは一般的には北を指し、角の大きさは時計回りで示されます。
中学・高校の地理では「東京の真東はチリ」と習います。これは普段見慣れているメルカトル図法からではほとんどの方が想像できません。普通、地図の上が北ならば、地図の右が東だと思うので、東京の真東はアメリカ合衆国だと思えます。
実際に ArcGIS Pro で地図を表示して確認してみましょう。ArcGIS Pro の [距離の計測] ツールを使えば、距離と方位 (北からの角度)を調べることができます。
メルカトル図法で方位を確認
ArcGIS Pro で新規にプロジェクトを作成すると、最初に「メルカトル図法」で投影されたベースマップが表示されます。[計測] ツールは、起点をクリックし、マウスをドラッグすると、起点とマウス カーソル間の距離と方位が示されます。
メルカトル図法で「東京-アメリカ合衆国西岸付近」を計測すると、2 点間の線分の方位角が「90°」と表示されます。ここで、計測の種類が「平面」であることを確認してください。これは地図上の直線での距離や方位という意味です。地図にはさまざまな地図投影法 (図法) があり、図法によって正しく表現できる情報が違います。メルカトル図法は、南北方向以外の方位を正しく示すことができません。
次に、計測の種類を「測地線」に変更して、もう一度方位角が 90° になるように調べてみます。すると、起点が東京ならば、2 点目は南米チリあたりにすることで 90° になります。測地線とは地球上の直線を意味します。直線なので地球上での 2 点間を結ぶ最短経路です。高等学校の地理ではこれを大圏航路と習います (補足: [計測] ツールの種類には「大楕円」があり、厳密にいうと大圏航路は大楕円と一致します。地球が完全な球体の場合、測地線=大楕円ですが、回転楕円体の場合は微妙に異なります。ここでは両者は同じものとして扱います)。
「東京-チリ」間の測地線は少し S 字状に湾曲していることが確認できます。地球上に描いた直線はメルカトル図法上では曲線として描かれるのです。逆にいうと、メルカトル図法上に描いた直線は地球上では曲線で描かれます。つまり、メルカトル図法に描かれた直線は、地球上をまっすぐ進む直線ではないのです。
なお、メルカトル図法は地図上のどの場所でも角度が正しい正角図法です。角度が正しいとは、地図上で任意の 3 点を結んでできた角の大きさが、地球上で描いたものと一致するという意味です。また、経線が平行なのでどの場所でも北の方角が一律です。そのため、メルカトル図法は地図上のどの場所でも北に対する角度 (=方位角) を等しく描くことができます。この、つねに同じ方位角で進んだときに描かれる線を航程線といいます。高等学校では等角航路と習います。[計測] ツールで「航程線」を選択することで、その経路を示すことができます。たとえば、東京から常に 114° の方位角を保ちながら進むと、チリにたどり着くことができます。
正距方位図法で方位を確認
次に、「正距方位図法」で確認してみます。正距方位図法とは、中心からの距離と方位が正しい図法です。
正距方位図法で、「平面」として「東京-チリ」間を計測すると、地図上の真東が 90° となります。
同様に、「測地線」の 90° 方向もチリになります。このことから、正距方位図法は、地図の中心から示した地図上の方位と、地球上の方位が同じ方向になることが確認できます。
ところで、東京から真東に描いた直線は、途中で赤道と交差します。交差したところからチリの方位を確認すると、90° (真東) にはなりません。
チリは東南東の方位となりますが、これは赤道上の真東は赤道上になることからもあきらかです。方位は起点から目標を向いた際の方向です。つまり、大圏航路を実際に進むと、起点から目標に向かって移動するごとに、進行方向の方位が少しずつ変化するのです。正距方位図法で距離と方位が正しく示されるのは地図の中心のみなので、中心をはずれた地点の大圏航路は正しく方位が示されないのです。中心を通らない 2 点間の距離や方位は直線で示す事ができません。たとえば、「ロンドン-シドニー」間を「測地線」で示すと、大圏航路は湾曲し、直線とはなりません。
さきほどはメルカトル図法で「航程線 (等角航路) 」を確認しましたが、今度は正距方位図法で東京から常に 114° の方位で進み続けた航程線を確認します。
起点が地図の中心が起点になっているにもかかわらず曲線で表現されています。つまり、等角航路は真っ直ぐ進んだ直線ではないのです。
シーンで確認
ArcGIS Pro は、「グローバル シーン」というモードにするとデジタル地球儀として表示できます。正距方位図法は、見慣れていないと大陸の形に違和感を覚えてしまいます。そのため、地球に似ているグローバル シーンで確認してみましょう。東京から真東 (90°) の方向を調べると、チリに向かって南半球に向かうことがよくわかります。
大圏航路は、地球儀に紐をピンとはった状態に等しいのですが、これをぐるっと 1 周すると、地球上に描ける最も大きな円となります。これを大円 (大圏) といいます。方位は、北極点と南極点を結ぶ子午線で描いた大円と、任意に描いた大円とのなす角、ということもできます。大円同士でなければ方位角は求められませんので、緯線 (赤道を除く) は方位を求める角度の基準としてはふさわしくないのです。
シーンに「航程線」を示すと、大圏航路とは異なる経路になることも確認できます。
「大圏航路」や「等角航路」の説明の仕方
地図を正しく表現する要素として「距離」「面積」「角度」「方位」の 4 つがあります。「角度」と「方位」は似ているように思えますが、角度はどの場所でどの方向に対してでも測れるのに対して、方位は起点と目標、そして方位の基準の方向で決められるという点が異なります。
うっかり「東京から常に真東に進むとチリにたどり着く」や「東京から真東に真っ直ぐ進み続けるとアメリカにたどり着く」と説明してしまうことがあるのですが、ArcGIS Pro で確認すると、これらの説明が誤りであることがわかります。ほんの少しのニュアンスの違いですが、大きな誤解を与えてしまうので、説明には注意が必要です。地図上でまっすぐなのか、地球上でまっすぐなのかの違いを意識するのがポイントです。
まとめ
ArcGIS Pro は、高機能な汎用のデスクトップ GIS ソフトウェアですが、今回ご紹介したように、地図の学習にもご活用いただけます。ArcGIS Pro は教育向けのアカデミック ライセンスや、初等・中等教育向けの利用支援プログラムもご用意しております。もちろん、教育機関に限らず、会社・行政などでの組織内教育にもご活用いただけます。ぜひご検討ください。
また、デジタル地球儀上で方位を確認するなら、無償の ArcGIS Earth もご利用いただけます (方位角の算出は Windows 版のみ)。
プロジェクトのダウンロード
今回ご紹介した、ArcGIS Pro のプロジェクトはこちらからダウンロードできます。