ArcGIS Pro で SAR 画像を利用してみよう !!③ ~ SAR 画像を用いた 2 時期の変化検出 ~

第二弾のブログ「ArcGIS Pro で SAR 画像を利用してみよう !!② ~ 簡単に始める Sentinel-1 の衛星 SAR 画像のデータ処理 ~ 」に引き続き、SAR 画像をもっと利用するための機能をご紹介します。前回ご紹介した内容は、放射量キャリブレーションやスペックル除去などの前処理を行い、疑似カラー合成によって視覚的に分かりやすい画像を作成するといったものでした。今回は ArcGIS Pro の変化の検出機能 を用いて、2 時期の SAR 画像から変化を検出する方法を紹介します。

二時期の比較


使用するデータは第二弾で処理を行った結果と、それとは別の日の画像をダウンロードして前処理済みの画像を使用します。今回は 2018 年に発生した地震による変化を分析するため、2018 年 9 月 12 日のデータを使用して、第二弾で紹介した処理を実行しています。下図は各画像の処理結果です。

左) 2018 年 7月 26 日 の画像 右) 2018 年 9 月 12 日 の画像

7 月と 9 月の画像を見比べてみると、7 月の画像の左下部分にピンク色が広い範囲に表示されていることがわかります。これは水田に水が張っており 2 回反射が起きていることが原因です。この変化は季節的なものと考えられます。では、山間部などで起きた土砂崩れの場所はわかりますでしょうか。

左) 2018 年 7月 26 日 の画像 右) 2018 年 9 月 12 日 の画像

上図は、厚真町の赤枠部分を拡大した画像です。よく見てみると、発災前は緑で表されていた場所がピンクに変化していることがわかります。これは、発災前は樹木による体積散乱が起こることで交差偏波の後方散乱の強度が強かった場所が、発災後は土砂崩れの影響で地表がむき出しになってしまったことで、散漫散乱による共偏波の後方散乱の強度が強くなったことに起因します。偏波についての説明は「ArcGIS Pro で SAR 画像を利用してみよう !!② 」でご確認ください。

土砂崩れが各地で起こったことは分かりますが、範囲は広大で 2 枚の画像を見比べながら被災箇所を特定するのは非常に手間がかかり効率的とは言えません。そこで今回は [変化の検出ウィザード] を使用して土砂崩れが発生した場所の検出を行います。

[変化の検出ウィザード]

[変化の検出ウィザード] は 2 つのラスター、またはラスターの時系列間の変化を検出するツールです。ガイド付きのワークフローに従って操作を行うことで実行できます。

※[変化の検出ウィザード] を使用するには Image Analyst エクステンションが必要です。

使用手順

① [変化の検出方法] は [ピクセル値の変化] を選択

② [From ラスター] に地震発生前の SAR 画像を入力し、[To ラスター] に地震発生後の画像を入力

③ [次へ] をクリック

[変化の検出ウィザード] パラメーターの設定①

④ [差分タイプ] に [相対] を選択

⑤ 今回は VV の強度の差を比較したいため、[From ラスターバンド] と [To ラスターバンド] に [Band 1] (VV) を選択

⑥ [次へ] をクリック

[変化の検出ウィザード] パラメーターの設定②

⑦ [統計情報とヒストグラムの計算] をクリックし、ヒストグラムを表示

⑧ [次へ] をクリック

 [変化の検出ウィザード] パラメーターの設定③

⑨ パラメーターの入力が終わったら [実行] をクリック

今回は設定していませんが、[近傍のスムージング] によって出力結果のスムージングを行うことができます。

[変化の検出ウィザード] パラメーターの設定④

結果

出力結果は以下のようになります。VV の偏波の後方散乱が強くなった場所で赤くなり、弱くなった箇所は緑に表示されます。

[変化の検出ウィザード] 結果

一部を拡大してみてみると赤く表示されており、ベースマップの衛星画像と見比べると土砂崩れで地表が露出している箇所が、変化のあった箇所として検出されていることが確認できます。

左) [変化の検出ウィザード] の結果 右) 同地点の衛星画像(Maxar 撮影 2022 年 10 月 26 日)

その他の利用

ArcGIS Pro では本ブログで紹介した機能以外にも、SAR 画像を活用した多様な解析が可能です。たとえば [明るい海洋オブジェクトの検出] ツールによる船舶や風車などの人工物の検出[カラー合成の作成] ツールによる洪水のマッピングなどが挙げられます。SAR 画像と ArcGIS Pro の各種ツールを組み合わせることで、災害対応や土地利用の変化分析など、幅広い分野への応用が期待できます。

まとめ

本ブログでは Sentinel-1 の SAR 画像を活用し、ArcGIS Pro の [変化の検出] ツールを用いて、土砂崩れの発生箇所を特定する手法をご紹介しました。SAR 画像の特性を活かすことで、光学画像では捉えにくい地表の変化を効率的に検出することが可能です。

また、第三弾の内容は第一弾第二弾のブログで紹介した内容と合わせてご覧いただくことで、ArcGIS Pro における SAR 画像の利活用の入り口として、より理解を深めていただくことができます。

さらに詳しく ArcGIS における SAR 画像の利用方法を知りたい方は「SAR の概要」や「SAR 衛星画像の基本操作」をご参照ください。

関連リンク

Sentinel-1 衛星データを使って ArcGIS Pro で船舶を検出する方法のご紹介

Sentinel-2 の衛星画像データの入手先まとめ & ArcGIS Pro でのデータの利用方法

フォローする