高機能デスクトップ GIS である ArcGIS Pro 3.0 が 2022 年 8 月 11 日 (日本時間 8 月 12 日) にリリースされました。待望のメジャー アップデートとなる本バージョンでは、65 個の新しいツールの追加や 84 個の既存ツールに対する機能強化が行われました。今回はバージョン アップの度にパワー アップする空間解析の機能に着目してその一部をご紹介します。
新しいジオプロセシング ツール
ジオプロセシング ツールとして新規に追加された 65 個のツールのうち 3 つを抜粋してご紹介します。
マルチスケール地理空間加重回帰分析
マルチスケール地理空間加重回帰分析 (MGWR) は、地理空間加重回帰分析 (GWR) を進化させたツールです。最小二乗法 (OLS)、MGWR、GWR はいずれも線形回帰モデルですが、動作する空間スケールがそれぞれ異なります。OLS はグローバル モデルで、1 つの係数ですべての場所の各説明変数と従属変数の間の関係を考慮します。一方、GWR はローカル モデルで、すべての説明変数で同じ近傍を使用することで、すべてのローカル関係が同じ空間スケールで動作するという前提に基づいています。その点 MGWR は、スケールにおける係数の変化が許可されているだけでなく、説明変数ごとのスケールの変化も許可されています。各説明変数と従属変数間の関係の異なる空間スケールを考慮に入れる説明変数ごとに異なる近傍を使用することで、これを実現しています。
たとえば、ある分析地域において、人口密度や年齢構成、世帯の収入など、地域間で解析スケールの異なる説明変数をそれぞれ別々に考慮し、犯罪率の増減にどのように影響するか解析したり、予測したりすることができます。
空間結合の追加
空間結合の追加ツールは、フィーチャクラスの属性を、空間リレーションシップに基づいて、別のフィーチャクラスの属性に結合します。空間結合ツールとの違いは、以下のとおりです。
空間結合の追加 | 空間結合 | |
出力 | ターゲット フィーチャに 結合フィーチャの属性が結合 |
新しいフィーチャ |
結合の対象 | 1 対 1 | 1 対 1 または 1 対多 |
結合の種類 | 一次的 | 永続的 |
トラッキングのスナップ
トラッキングのスナップ ツールは、入力トラック ポイントをラインにスナップします。ポイント データは、特定の時間を表すフィールドを含み、時間プロパティが有効化されている必要があります。また、ライン データは起終点を表すフィールドを含むライン同士が方向、接続性の観点から接続している必要があります。
たとえば、道路ネットワークからずれが生じた GPS のログ データを、道路の上下線を判別し、一致するよう移動する時に便利なツールです。なお、ツールの実行には Advanced ライセンス レベルが必要です。
機能強化
84 個の既存ツールに対する機能強化のうちの 1 つを抜粋してご紹介します。
選択レコード数の表示
ジオプロセシング ツールでは、入力レイヤーに定義クエリ、時間フィルター、レンジ フィルター、選択があるかどうかに基づいて、処理されるレコード数が表示されるようになりました。
解析を実行したものの、結果が思ったものと違ったという経験がある方も多いのではないでしょうか。解析対象のフィーチャが選択された状態にある場合、選択フィーチャに対してのみ、解析が実行されてしまうことがあります。
たとえば、下図のように、全国の鉄道駅から東海地方の鉄道駅をクリップしようとしたときに、ある特定の都市を選択した状態 (図中でハイライトされた静岡県下田市) だと、ツールを実行しても、処理が選択状態の都市に対してのみ実行されるため、出力は空という結果になります。今回、本来意図した出力を得るためには、ジオプロセシング ウィンドウに表示されたメッセージを確認し、[選択解除] を行ってから、クリップ フィーチャを東海 4 県全体に設定し直した上で再度ツールを実行する必要があります。
以上のように、今回の機能強化によって、選択されているレコード数が示されるようになったため、選択によって意図せずにジオプロセシング処理が限定されてしまうことを防ぐことができます。
まとめ
本記事でご紹介した内容は新機能の中のほんの一部です。その他のアップデートによる多くの新しいツールや機能強化の詳細については、「ArcGIS Pro 3.0 の新機能」をご参照ください。