『ArcGIS Proではじめる地理空間データ分析』は 2024 年 4 月 23 日に古今書院から出版された ArcGIS Pro の新しい解説書です。本書は著者の桐村 喬氏が大学での授業資料を基に全面的に加筆修正したものです。ArcGIS Pro での地理空間データの作成や分析を基礎から応用まで扱っており、初心者から上級者までどのレベルのユーザーにも向いています。
本書の特長と内容
特長
本書には 3 つの特長があります。1 つ目は、実際に ArcGIS Pro を操作しながら学習ができる点です。一部の章では演習データをダウンロードすることができます。また、演習で使用するオープンデータのダウンロード方法も紹介されており、演習を通して ArcGIS Pro の操作だけでなく、オープンデータの取り込み方法を学習することができます。さらに、練習問題がある章では、発展的な演習を行うことができます。
2 つ目は、各章の冒頭でその章で取り上げる GIS の技術や分析の内容について解説がある点です。基本的な知識を学習したうえで操作演習に入るので、読者が ArcGIS Pro の操作をより理解しやすい構成になっています。
3 つ目は、操作演習に丁寧な補足が含まれている点です。操作でつまづきやすいところの補足や操作のコツだけでなく、設定に使用した機能に関する解説が含まれています。それぞれの操作を行う意味や注意点、背景情報を確認しながら演習ができるので、ArcGIS Pro の操作を身に着けやすい工夫がされています。
内容
続いて本書の内容について紹介します。本書は 5 つの内容で構成されています。1 つ目の「①入門編 」(第 1 ~ 4 章・コラム 1・2) では、ArcGIS Pro の基本的な使い方や、GIS データ形式の解説、データの 3D 表示や検索、データを地図として出力するといった ArcGIS Pro を使う際にまず知っておきたいことが解説されています。
特に、第 2 章の GIS データ形式や特徴について、よく知らずに ArcGIS を使っている方がいましたら、読んでおきましょう。また、第 3 章 の検索機能を使ったデータ選択は、分析前のデータ処理でよく使用する操作ですので重要な章です。
2 つ目の「基礎編①: データ処理」 (第 5 ~ 11 章・コラム 3・4) では、分析を行う前のデータ入手方法やデータ処理の方法、データ処理に必要な座標系の知識について解説しています。GIS の分析を行うにはよいデータ処理が必須なので、どの章も読んでおきたい大事な章です。5 章の座標系は、正しい位置にデータを表示させるために必要な分野ですが苦手な方も多いの分野ですので、本書でマスターしましょう。6 章のインターネット上の GIS データの入手方法は、GIS で使えるデータを探している読者にお勧めです。e-Stat を利用する読者は、コラム 4 で紹介されている手順で加工が必要なため、こちらも目を通しておくと良いでしょう。
3 つ目の「基礎編②: 分析手法 (第 12 ~ 15 章・コラム 5・6) では、基礎的な分析手法が紹介されています。
GIS 初心者の方は、バッファーやオーバーレイ解析といった基本から始めて、慣れてきましたら統計分析や コラム 5 の ModelBuilder で処理の自動化に挑戦してみましょう。
続いて、4 つ目の内容は、「応用編①: データ作成」 (第 16 ~ 17 章)です。モバイルアプリの ArcGIS Field Maps や ArcGIS Survey 123 での地理空間情報の現地調査や、位置情報を持たない紙地図をジオリファレンスで GIS 上に重ね合わせる方法を扱っています。
最後 5 つ目の 「応用編②: 地域分析」 (第 18 ~ 21 章・コラム 7) では、具体的な分析の事例が紹介されています。リモートセンシングによる衛星画像データの分析 、災害リスクの可視化を目的とした地形解析、ネットワーク分析を使用した津波避難場所のカバー人口の分析、施設の立地環境や商圏の分析というさまざまな分野のラスター データ、ベクター データを使った分析事例が紹介されており、多くの読者の業務や研究に役立つでしょう。
以上のように、本書ではさまざまなデータ形式の扱い方や分析方法について基礎から応用まで幅広く紹介されており、どんなレベルの ArcGIS ユーザーもスキルアップできる内容となっています。本書を何度も読んで学習することで、日本では数少ない地理データ サイエンティストに近づくことができる 1 冊です。
書籍情報
ArcGIS Proではじめる地理空間データ分析
著者: 桐村 喬
発行所: 株式会社古今書院
出版年月日: 2024 年 4 月 23 日
定価: 本体3,000円+税
目次
入門編
第1章 GISで地図を描く
第 2 章 GISデータの代表的な形式・特徴を理解する
第3章 属性や位置関係でデータを検索する
第 4 章 GISデータを3次元表示する
基礎編①: データ処理
第 5 章 GISデータの座標系(投影法)を理解する
第 6 章 インターネット上のGISデータを使う
第 7 章 複数のデータを統合する
第 8 章 ベクターデータを編集する
第 9 章 住所データをジオコーディングする
第 10 章 内挿でラスターデータを作る
第 11 章 位置関係でGISデータを結合する
基礎編②: 分析手法
第 12 章 バッファーデータを作成する
第 13 章 GISデータが重なる領域を抽出する
第 14 章 ヒートマップで密度の高い地域を表現する
第 15 章 GISデータを計算・分析・可視化する
応用編①: データ作成
第 16 章 モバイルアプリで地理空間情報を調査・収集する
第 17 章 紙地図をGISで重ねる
応用編②: 地域分析
第 18 章 リモートセンシング画像(衛星画像)を分析する
第 19 章 地形解析で自然災害リスクを可視化する
第 20 章 ネットワーク分析で津波避難施設のカバー人口を計算する
第 21 章 施設の立地環境と商圏を分析する
コラム
① Illustratorを使ってきれいな地図を仕上げる
② 地理院地図をGISに読み込む
③ データの文字コードについて考える
④ e-Stat の小地域統計データをGISで使うために準備する
⑤ モデルビルダーで分析手順を見える化する
⑥ 空間分布を統計的に分析する
⑦ 衛星画像データ(Sentinel)をダウンロードする