人流データ オンライン サービス (KDDI Location Data 版) で見る「青森ねぶた祭」

ESRIジャパンでは、KDDI 株式会社の au スマートフォンから得られる GPS の位置情報や属性 (性別・年代) 情報をもとにした人流データを、Online Suite 人流データ オンライン サービス (KDDI Location Data 版) (以下、人流オンライン) として配信しています。新型コロナウイルス感染症への公衆衛生対策に頻繁に用いられた人流データですが、活用の場は感染症対策にとどまりません。本記事では、ArcGIS Pro で人流オンラインを使用し、感染症対策「以外で」人流データを活用する方法を、「青森ねぶた祭」を例にご紹介します。

人流データ オンライン サービス (KDDI Location Data 版)

人流オンラインは、125 m メッシュで配信されています。メッシュの人口は、平日・休日・休前日1の各時間帯における 1 日あたりの平均滞在人口を表しています2
人流オンラインの属性には、全体の滞在人口のほか、性別滞在人口や年代別滞在人口が含まれます。人流オンラインに関する詳細な情報は、製品ページまたはサービス仕様書 (Excel ファイル) をご参照ください。

青森ねぶた祭

「青森ねぶた祭」は、毎年 8 月 2 日から 7 日に青森県青森市で開催され、巨大な「ねぶた」と呼ばれる山車の運行で日本全国はもとより世界的にも有名なお祭りです。青森ねぶた祭実行委員会によると、奈良時代に日本へ伝えられた「七夕祭」と古来から続く津軽の習俗が交わり、紙・竹・ろうそくで灯篭が作られたのがねぶたの由来だと考えられています。現在のような大型のねぶたが作られ始めたのは江戸時代後期の文化年間とされています。明治時代に出された禁止令や昭和時代の第 2 次世界大戦によって一時祭りが行われない時期もありましたが、人気は衰えず、特に戦後は観光ブームも相まってねぶたは徐々に大型化したとされています。

青森ねぶた祭に関連する人出は多く、日本銀行青森支店ほか (2023) によると、新型コロナウイルス感染症流行期 (以下、コロナ禍) 前の 2019 年には開催期間中の来訪者が 285 万人に達したとされています。2020 年と 2021 年はコロナ禍のため中止されましたが、2022 年には 105 万人に回復し、2023 年も 101 万人が来訪しました。

人流オンラインで「青森ねぶた祭」を見てみる

このように人気を博している「青森ねぶた祭」に、どのくらい人を集める力があるのか、どの時間帯に人が集まっているのかを、ArcGIS Pro で人流オンラインを使用して可視化します。なお、本記事では、2023 年 7 月を通常時とし、2023 年 5 月を大型連休シーズン、さらに 2023 年 8 月を「青森ねぶた祭」シーズンと定義し、それぞれの月の人流オンラインを加工したデータを使用しました。

人流オンラインのシーズン定義
通常時大型連休シーズン「青森ねぶた祭」シーズン
2023 年 7 月2023 年 5 月2023 年 8 月

どのくらい人を集める力があるのか? – 7 月に対する比率の比較

ここでは、通常時の 7 月に対し、大型連休シーズンの 5 月と「青森ねぶた祭」シーズンの 8 月とでは、人口増加にどれほどの差があるのかを、8 月であれば「青森ねぶた祭」の運行開始から 1 時間後となる 20 時台を対象に見てみます。なお、以下に掲載される画像中で、メッシュ上に表示される値は、7 月の平日または休日に対する人口の比率を表しています。

平日 20 時台の場合

第 1 図 7 月の人口に対する 5 月の人口の比率 (平日 20 時台 / 2023 年)

上の画像は、2023 年 7 月の平日 20 時台に対する 2023 年 5 月の平日 20 時台の人口の比率を示しています。5 月は大型連休シーズン、すなわち行楽地への人の移動が多い時期ですが、平日は通常時の 7 月とあまり変わりません。翻って、休日にのみ人の移動が起こっていると考えられます。なお、青森駅の北側では激しい人口増加が起こっていますが、ここにはかつての青函連絡船「八甲田丸」や青森桟橋の跡が残されており、連休に挟まれた平日に観光客が訪れていた可能性があります。

第 2 図 7 月の人口に対する 8 月の人口の比率 (平日 20 時台 / 2023 年)

上の画像は、2023 年 7 月の平日 20 時台に対する 2023 年 8 月の平日 20 時台の人口の比率を示しています。8 月の平日 20 時は、海岸沿いで 7 月よりも特に人口が多く、特に「青森県観光物産館アスパム」や「ねぶたラッセランド」 (期間限定で設営) がある青い海公園では、通常時の 7 月の 10 倍近くなるところもあります。また、赤と白の線で示したねぶたの運行ルート周辺でも通常時の 7 月に比べて人口が増加しており、これらの結果は観光客が多い場所を示していると考えられます。しかしながら、人流オンラインのデータは 1 か月の平均であり、かつ平日は休日以上に日数が多いため、「青森ねぶた祭」期間中の人口増加が少なく見積もられている可能性があることにも注意しなければいけません。

休日 20 時台の場合

第 3 図 7 月の人口に対する 5 月の人口の比率 (休日 20 時台 / 2023 年)

上の画像は、2023 年 7 月の休日 20 時台に対する 2023 年 5 月の休日 20 時台の人口の比率を示しています。5 月の平日には 7 月よりも人口が多かった新町通り沿いは、休日になると 7 月よりも少なくなりました。反対に、県庁通りより東の国道 7 号線沿いでは 7 月よりもやや人口が増加しています。

第 4 図 7 月の人口に対する 8 月の人口の比率 (休日 20 時台 / 2023 年)

上の画像は、2023 年 7 月の休日 20 時台に対する 2023 年 8 月の休日 20 時台の人口の比率を示しています。運行ルートに重なるほとんどのメッシュで 7 月よりも人口が増加しており、特に国道柳町交差点から西に少し進んだ青森地方裁判所付近では、7 月の 154 倍にも上ります。運行ルートの周辺で、5 月の休日 20 時台の人口が 7 月の休日 20 時台の人口の最大 2.85 倍だったことと比較すると、大型連休を超える「青森ねぶた祭」の集客力がうかがえます。また、1 か月の休日 20 時台の人口を平均してもなおこれだけ顕著な結果が出ることから、実際にはこの結果よりも非常に激しい人口増加が起こっていたことが容易に想像できます。

いつ頃人が集まってくるのか? – 8 月の休日を例に

ここでは、前節で 7 月に比べて顕著な人口増加がみられた 8 月の休日を対象として、いつ頃人が集まってくるのかを見てみます。なお、以下に掲載される 16 時台以降の画像中で、メッシュ上に表示される値のうち、黒字のもの (例えば「1000」など) はその時間帯の人口を、青字または赤字のもの (例えば「+ 100」「- 200」など) は前の時間帯からの人口の増減を表しています。

15 時台 (運行が始まる 3 時間前)

第 5 図 8 月の人口 (休日 15 時台 / 2023 年)

15 時台では、青森駅前を筆頭に、八甲通りまでの新町通り沿いで人口が多いことわかります。また、青い海公園にも人口が集中しています。ねぶたの運行ルート上を見ると、県庁通りと新町通りの交差点と橋本一丁目交差点付近で 200 人を上回った以外は、おおむね 0 – 200 人程度でした。

16 時台 (運行が始まる 2 時間前)

第 6 図 8 月の人口 (休日 16 時台 / 2023 年)

16 時台では、青森駅にほど近い新町通沿いと青い海公園周辺、運行ルート上の大部分で人口が増えています。傾向としては 15 時台と同様に青森駅から八甲通りまでの新町通り沿いで人口が多いものの、さらに運行ルート上にも人が集まり始めました。新町通り、国道 7 号線、八甲通り、県庁通りに囲まれた場所のあたりではやや人口が減っており、駅前通りもしくは運行ルート上へと移動していると考えられます。

17 時台 (運行が始まる 1 時間前)

第 7 図 8 月の人口 (休日 17 時台 / 2023 年)

17 時台では、15 時台 – 16 時台で多かった青森駅前や青い海公園周辺の人口増加が鈍化、あるいは減少する一方、運行ルート上の人口は順調に増加しています。大型ねぶたの出発地点である安方二丁目交差点から本町五丁目交差点間では 200 人を超え、多いところで 400 人近くとなりました。

18 時台 (運行開始前後)

第 8 図 8 月の人口 (休日 18 時台 / 2023 年)

18 時台では、青森駅前や青い海公園周辺で人口が急激に減少し、対照的に運行ルート上のすべてのメッシュで人口が増加しています。その多くで 3 桁にも上る人口が増加しており、特に安方二丁目交差点付近では 600 人を超えました。有料観覧席のある国道 7 号線沿いはすべてのメッシュが 200人を超え、ところによっては 400 人も超えています。

19 時台 (運行開始)

第 9 図 8 月の人口 (休日 19 時台 / 2023 年)

19 時台に入り運行が始まる時間になると、安方二丁目交差点付近と本町五丁目交差点付近では 800 人を超えました。国道 7 号線沿いでは一部 400 人を下回る場所もあるものの、おおむね 400 人を超えています。国道 7 号線は有料観覧席でほとんど占められているため、安方二丁目交差点付近や本町五丁目付近に比べて入れる人口に上限があることが、人口が爆発的には増加していない理由だと考えられます。

20 時台 (運行開始から 1 時間後)

第 10 図 8 月の人口 (休日 20 時台 / 2023 年)

20 時台になると、人口増加は鈍化しました。運行開始から 1 時間以上が経過しており、すでに多くの人が集まっていることが原因であると考えられます。それでもなお人を集めている場所はあり、安方二丁目交差点付近では 900 人近く、本町五丁目交差点では 900 人すらも超えています。

21 時台 (運行開始から 2 時間後 ~ 運行終了)

第 11 図 8 月の人口 (休日 21 時台 / 2023 年)

21 時台になると、運行ルート上ではやや人が減り始めています。運行の終盤から終了にかけての時間帯であるため、宿泊場所へと分散していっているものと考えられます。安方二丁目交差点から本町五丁目交差点の間では人口が増加していますが、ここは大型ねぶたの終了地点に近い場所であることから、見送りのために集まっているものと考えられます。

まとめ

本記事では、人流オンラインを用いて、「青森ねぶた祭」はどのくらい人を集める力があるのか、どの時間帯に人が集まっているのかを見てきました。1 か月のうち 1 週間のみ開催される「青森ねぶた祭」への人出が、1 か月の人流の平均を取っても顕著に表れたことは、「青森ねぶた祭」が非常に強い影響力を持っていることの証明ともいえます。また、本記事の内容から、人流データを使用することで、「青森ねぶた祭」のような大型イベントがどれだけの集客力を持つかを分析できるといえます。

このように、人流データが活躍できる分野は数多くあります。気になったことを人流データで見てみると、意外な発見があるかもしれません。

脚注

  1. 「平日」は「休日」および「休前日」ではない日、「休日」は土日・祝日、「休前日」は「休日」の前日を指す。 ↩︎
  2. ある時間帯における 1 日あたりの平均滞在人口は、その時間帯のメッシュ内部に 15 分以上滞在した人数に拡大推計処理を施したうえで 1 か月の総和を求め、それを平日・休日・休前日それぞれの日数で割ることによって求められている。例えば、「12 月の休日 12 時台の人口」は、「12 月の休日 12 時台に計測および拡大推計処理された人口の総和を、休日の日数で割って平均した人口」を表す。 ↩︎

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