
ミゲル・アメリゴ氏は、世界の建設業界が長年抱えている生産性の問題の主な原因は、データの共有不足や連携の欠如にあると考えています。スペイン・マドリードに本社を置く建設業界のリーダー、OHLAの研究開発・イノベーション部門責任者であるアメリゴ氏は、「情報は力を持っていますが、ほかの業界でも同じようにバリューチェーンのメンバー間で情報を交換するのは非常に難しいです。」と述べています。
この問題に対処するため、アメリゴ氏とOHLAのチームは、ドローン画像、地理情報システム(GIS)ソフトウェアによって生成されたデジタルツイン、建築情報モデリング(BIM)データを使用した共同アプローチを先駆者となりながらとっています。彼らはスペインのカセレス県にある4,700万ドルのバイパス道路でこのアプローチを試験的に導入しています。GISを利用したダッシュボードを使えば、プロジェクト責任者は、下請け業者、地域住民、プロジェクトオーナー、規制当局とリアルタイムの最新情報、現場データ、現場の様子を簡単に共有することができます。
「建設現場には関係者が多くいます。GISは、コミュニケーションや調整、コラボレーションにとても役立っています」とアメリゴ氏は言います。
データの移動という途方もない仕事
スペインの交通・モビリティ・都市アジェンダ省(MITMA)がOHLAに発注したマルパルティダ・バイパス道路プロジェクトは、複数の市町村を通り6マイルに及びます。建設には、1万2000立方メートルのコンクリート、10トンのアスファルト、6万5000枚のドローン画像など、大量の資材とデータが必要です。作業員の安全は守られなければならず、住民はスケジュールに支障が出る可能性があることを知らされるだろうと思っています。
発破孔が開けられ、セメントが流し込まれる中、GIS、BIM、ドローンは、プロジェクトに関する視覚的な最新情報と関係者間のコミュニケーションを管理するツールを責任者たちに提供します。請負業者はたった1つの画面から、道路周辺の2Dマップ、作業現場全体の3Dデジタルツイン、重要なプロジェクトドキュメントにアクセスできます。
GISベースのデジタルツインは、OHLAが顧客のために将来のバイパスのセクションを視覚化する手助けをし、建設が始まる前から役立っていました。工事が始まった今、ダッシュボードは情報交換と意思決定の司令塔として機能しています。建設関係者は、現地調査情報、環境危険記録、排水設備組み立て部品などの最新データにすぐにアクセスできます。情報源がひとつになることで、伝達ミスが減り、プロジェクトの完了が早まります。
「すべての情報は、このダッシュボード上の1つの場所にあり、あなたにとって適切なタイミングでアクセスできます」と、デジタルツイン技術の導入を監督したOHLAの設計・BIMマネージャーのマヌエル・カルピンテロ氏は言います。「情報にさまざまな方法でアクセスできますが、情報があがっている場所は1カ所です。すべてが明確です」。
どのようにGIS、BIM、ドローンがプロジェクト・コミュニケーションを加速させるか
管理者は、ベージュ色のフォルダを探し回る代わりに、3Dマップで作業エリアをナビゲートできます。陸橋に置かれているもののように色分けされたコーンをクリックすると、担当セキュリティ・マネージャーの名前と、手すりを備えた防護壁の追加といったリスク軽減計画が表示されます。
大規模なインフラ・プロジェクトでは、一般市民にどれだけ情報を開示して透明性を保てるかが鍵となります。バイパス道路の経路が変更された場合、OHLAのプロジェクトマネージャーはダッシュボードを参照して、どの土地所有者が影響を受ける可能性があるかを確認し、彼らに警告することができるのです。「ダッシュボードを使うことでより迅速に市民に伝達できます。」とカルピンテロ氏は話します。
ビジネスが空間と時間を管理するのを手助けするデジタル・ツインの可能性に多くの業界の経営幹部が目覚めつつあります。マルパルティダのバイパス道路プロジェクトでは、ドローンが毎月現場の画像を撮影し、そのデータをGISソフトウェアに取り込んでいます。地図上のさまざまな場所から、アナリストは工事のさまざまな段階で撮影されたドローンの写真を見ることができます。画像はMITMAの関係者には進捗状況を、環境規制当局にはコンプライアンスを示します。
アメリゴ氏は、ドローン、GIS、BIMの組み合わせは、新しいテクノロジーに警戒心を抱いていた労働者たちを虜にしたと言います。「進行中の作業や、問題が発生したときに得られる情報や、このプラットフォームを使って問題を解決し、他の利害関係者とやり取りするところを見て、彼らはメリットを感じ始めるのです。」
コミュニケーションとプランニングにおける視覚的正確さの重要性
効率とコミュニケーションの向上を求める組織は、あらゆるもの-例えば世界を横断する予備のコンピュータ部品から訪問看護師のルートまで、を追跡するためにGISを利用しています。OHLAでは、ドローン画像の使用と、プロジェクトをデジタル・ツインとして見る必要性が、位置情報技術の役割拡大に拍車をかけました。
「GISは、以前は別の方法で生成され、使用されていたこれらの情報をサポートするようになりました」とアメリゴ氏は言います。「それが、ゼネコンの視点から見たGIS利用の転換点だと思います」。
建設業界では、正確な現場画像が計画とコミュニケーションに欠かせません。位置情報テクノロジーとドローン画像は、経営幹部に現場の鮮明さを提供し、雨の夜のような状況を確認したり、陸橋の下の安全をクリックひとつで測定したりすることを可能にします。
アメリゴ氏やカルピンテロ氏らは、この新しいアプローチが、2020年から2022年にかけて生産性が8%低下した建設業界に必要な技術的な一撃になると考えています。「私たちゼネコンは、生産性にとてもかかわるためこのようなコラボレーションと情報共有を促進することに大きな関心を持っています」と述べています。