以前の記事「ArcGIS Web AppBuilder のサポート終了について」でお伝えした通り、ArcGIS Web AppBuilder (以下 Web AppBuilder) は 2024 年 7 月以降順次、サポートが終了となる予定です。
Web AppBuilder で作成されたアプリは廃止後も引き続き動作します。ただし後継の製品として ArcGIS Experience Builder (以下 Experience Builder) が提供されており、新規にアプリを作成する際の利用、および Web AppBuilder で作成した既存のアプリの移行を推奨しています。
そこで移行に向けて気になるポイントを 3 回に分けてご紹介します。第一弾となる今回は、両製品の違いと移行のメリットに焦点を当ててご紹介いたします。
目次
テクノロジーの違い
Experience Builder は、Web AppBuilder と同様に Web アプリを作成するためのノーコード/ローコード ツールです。
両製品の最も大きな違いとしては、基盤となるテクノロジーです。Web AppBuilder は ArcGIS API for JavaScript に基づいて構築されており、Experience Builder は ArcGIS Maps SDK for JavaScript に基づいて構築されています。ArcGIS Maps SDK for JavaScript は WebGL を採用しているため、高速描画や豊富なビジュアライゼーション機能を利用できます。
これによって Experience Builder は Web AppBuilder よりもモダンで柔軟な Web アプリが開発できるようになりました。テクノロジーの変化に伴う機能の向上については以下の図の通りです。
機能面の違い
Web AppBuilder と Experience Builder では基盤となるテクノロジーが異なることをご紹介しましたが、それに伴って機能面がどのように変化したのか見ていきましょう。
1 つのアプリ内で 2D、3D コンテンツを利用可能
Experience Builder では、1 つのアプリに複数の 2D マップや 3D シーンを表示可能です。また以下のアプリのように 2D、3D を連携させることでデータを異なる視点から視覚化し、特性をより詳細に理解することができます。
また近年、国土交通省都市局が推進する 3D 都市モデル「Project PLATEAU」が注目を集めるなど、3D データの需要や活用法が広まりつつあります。Experience Builder を利用することで、これらの最新技術への対応が可能です。
ArcGIS コンテンツの統合
Experience Builder を利用することで、ArcGIS Online または Enterprise に公開されているコンテンツを統合できます。他の Web アプリを埋め込んだり、さまざまなデータを取り込むことで柔軟に構成可能です。
他のコンテンツを再活用することで、より充実した Web アプリを作成できます。
豊富なアクション機能
上記でご紹介した 2D、3D の連動を支えている機能がアクションです。アクション機能を利用することでウィジェット間の対話性を強化し、動的で対話的なアプリを作成可能です。マップ間の連動だけでなく、テーブルやチャートなど様々な要素を連動させることが可能です。アクション機能についての詳細は「アプリのアクション」ストーリーをご参照ください。
マルチ デバイスの表示設定
Experience Builder はデスクトップだけではなくモバイル向けの Web ブラウザーもサポートしており、クロスプラットフォームを実現できます。
モバイルやタブレットといったデバイスごとにレイアウトできるアダプティブ デザインに基づいており、さまざまなデバイスを利用するユーザーに対し、一貫したユーザー エクスペリエンスを提供可能です。
マルチ デバイスの表示設定についての詳細は「デバイスごとの表示設定」ストーリーをご参照ください。
自由度の高いデザイン
Web AppBuilder と比較して、Experience Builder ではより自由度の高いデザイン設計が可能です。
具体的にはウィジェットと呼ばれるパーツ群を任意に配置することで、アプリの画面構成を目的や要件にあった形で表現することができます。
またページ構成も柔軟にデザイン可能で複数ページでの構成や、全画面ページ・スクロール ページの選択ができます。
移行のメリット
新しいテクノロジーへの対応
前述の通り、Experience Builder は ArcGIS Maps SDK for JavaScript で構成されています。多様なデータ ソースをサポートしているほか、従来の ArcGIS API for JavaScript と比較すると全体的なパフォーマンスが向上しています。
Experience Builder 独自の機能
前述の通り、アプリ作成時に Experience Builder を利用すると Web AppBuilder が提供していなかった機能を搭載可能です。2D/3D 連携や複数ページの構成といった、モダンな機能を搭載したアプリを作成できるようになります。
サポート終了への対応
Web AppBuilder は ArcGIS API for JavaScript バージョン 3.x を使用しており、2024 年 7 月以降順次、サポートが終了となる予定です。一方 Experience Builder は最新の ArcGIS API for JavaScript 4.x を使用しており、今後もサポートが継続されます。
Experience Builder の活用例
さいごに Experience Builder を活用した事例をご紹介します。
国土交通省関東地方整備局 荒川下流河川事務所が公開している「Arakawa Digital Twin online - 荒川 3D 洪水浸水想定区域図 ~ 3D 洪水ハザードマップ~」は Experience Builder で作成した洪水浸水想定区域図を公開しています。2D/3D 連携といった機能を利用し、より効果的に視覚化することで情報の発信力が向上しました。実際に自治体広報や地域防災で活用され、関係者や周辺住民の防災意識の向上につながっています。
このように Experience Builder を利用し新しいテクノロジーを導入することでアプリの表現の幅を広げ、情報の発信力を向上できます。
移行に関連したドキュメント
Experience Builder ではじめてアプリ作成する方に向けた利用ガイド
ArcGIS Experience Builder 利用ガイド
移行に関するヘルプ
Web AppBuilder ユーザーに向けた Experience Builder
Web AppBuilder と Experience Builder の機能比較表
移行についての FAQ—ArcGIS Web AppBuilder
今回は移行に向けて気になるポイントとして両製品の違いと移行のメリットをご紹介しました。
次回はより詳しく「ウィジェットの比較」をご紹介する予定です。