ArcGIS における「日本測地系2024 (JGD2024)」への対応について

日本測地系2024

本記事は、「測地成果2024」によって改定された、「日本測地系2024」の ArcGIS における扱いに関する説明です。「ジオイド2024 日本とその周辺」のデータ処理に関する内容は含まれておりません。

本記事に掲載している内容は、2025 年 4 月 25 日時点の情報です。新しい情報が分かり次第、随時更新します。

はじめに

2024 年 6 月 3 日 (測量の日) に、国土地理院の Web サイトに「令和7年度 全国の標高成果の改定」に関する情報が掲載され、2025 年 4 月 1 日より、日本の標高を「測地成果2024」に基づいた値に移行することが公表されました。また、2025 年 3 月 18 日に全国の標高成果の改定に関するQ&A追記が行われ、測地成果2024 に基づいて計測された座標の定義を「日本測地系2024 (JGD2024)」と称することが公表されました。

この公表を受けて、弊社では ArcGIS への日本測地系2024 対応を進めておりますが、本記事の公開日時点では、ArcGIS は日本測地系2024 に未対応です。ArcGIS は、さまざまな測地系・座標系に対応できる高い柔軟性を持っているがゆえ、未対応(未知)の座標系を扱う場合は、扱い方によって意図しない場所に GIS データが表示されてしまう可能性があります。

本記事では、日本測地系2024 の登場によって起こりえる問題と、対処方法などについて解説します。

「測地成果2024」と「日本測地系2024」について

「測地成果2024」とは

測地成果2024 とは、新しい基準によって計測された基準点の成果表の名称です。新しい基準とは、標高の計測基準が変更されたというものです。これまで日本の標高は、「東京湾平均海面」と呼ばれる明治時代に東京湾 (当時) の平均海面を計測して求めた「標高 0m」を基準とし、水準測量によって全国に展開されました。標高の基準点である水準点は各所に設置され、日本水準原点は国会議事堂に隣接する国会前庭に設置されています。

2025 年 4 月から、日本の標高はこれまでの水準測量に基づく計測方法に代わり、衛星測位を基盤として計測されることになりました。衛星測位から標高を求めるにはジオイド モデルが必要ですが、より正確なジオイド モデルが構築できたことにより、衛星測位から日本の標高が正確に求められるようになったため、今回の改定に至りました。

基準点とは、三角点水準点などを総称した名称ですが、国土地理院によって整備されている基準点に記録された標高値は、従来の水準測量に代わって衛星測位によって求められた値に更新されました。この成果物を「測地成果2024」といいます。測地成果2024 は、標高のみを対象にした成果表です。つまり、水平の位置を示す緯度・経度の値は 2011 年 10 月に改定された「日本測地系2011」の測量成果である「測地成果2011」から変更されていません

これまでの測地成果とその内容については、国土地理院の Web サイトで解説されています。

「日本測地系2024」とは

「日本測地系2024 (JGD2024)」とは、測地系の名称です。測地系とは、地球上で位置を測る際のルールで、成果表の名称である「測地成果2024」とは別の概念です。一般的には、測地系は水平方向の座標である緯度・経度のルールを意味して利用されることが多いですが、日本で定義されてきた日本測地系「日本測地系2000」「日本測地系2011」という名称には、水平方向の計測基準と高さ方向の計測基準の双方が含まれています (これを地理情報標準では複合座標参照系といいます)。そのため、測地成果2024 によって高さの基準が変更となることで、これまでとは別の複合座標参照系の名称を定める必要性が生じ、新たに「日本測地系2024」という名称が定義されました。

測量法などの法令上は一貫して「世界測地系」という名称が使われていますが、学術的な名称としては「日本測地系2000」「日本測地系2011」「日本測地系2024」の 3 種類があります。ArcGIS をはじめとする汎用 GIS ソフトウェアでは、一般的に学術的な名称が使われています。法令上の名称と学術的な名称のどれが一致するかは時期や経緯によって異なります。また、WGS84 も「世界測地系」のひとつと説明されますが、これは地球の重心と回転楕円体の中心が一致するという意味を持った一般名詞です。そのため、「世界測地系」が何を示しているかは文脈から判断する必要があります。

ArcGIS における「日本測地系2024」への対応について

2025 年 4 月時点の最新バージョンである ArcGIS Pro 3.4 / ArcGIS Enterprise 11.4 をはじめ、ArcGIS Online などの各ソフトウェア/サービスは「日本測地系2024」には未対応です。ArcGIS は、さまざまな座標系 (地理情報標準で定義されている座標参照系のこと)に対応しており、さまざまなプリセットの座標系が定義されています。

しかし、「日本測地系2024」は、EPSG のような公的機関による WKID (Well Known ID、SRID ともいう) でも定義が決まっていません。弊社では、測地系の改定に伴い新しい座標系を ArcGIS に定義するための準備を進めておりますが、そのためには英語名や EPSG 番号やなど、国際機関の定義と協調する必要があります。この件については、国土地理院に確認中で、詳細な情報が得られ次第、ArcGIS への組み込みを開始します。

ArcGIS での利用において考えられる問題

国土地理院から、改定後の成果を反映したデータの提供情報が公開されていますが、これらの中には座標値が更新される以外に、座標系の定義も更新されることが考えられます。シェープファイルのように、ArcGIS が直接利用できるデータの場合、座標系が正しく定義されていれば、利用に際して大きな問題はありませんが、いくつか留意点があります。

水平座標系の利用

現行の ArcGIS では、日本測地系2024 がシステムに組み込まれていないため、マップ上に測地系が異なるデータが混在していて、その中のひとつが日本測地系2024 である場合、既定の設定では次のような警告が表示されます。

ポップアップによる警告
ArcGIS Pro の [マップ] プロパティ → [座標変換] 内での警告

水平の座標系において、日本測地系2024 は一般名詞としての世界測地系であり、実質的に日本測地系2011 と同じです。そのため、レイヤーが参照するデータとして世界測地系のみを扱う場合は、この警告は無視しても問題ありません。さらに、WGS84 は一般的な GIS の用途においては測量における元期 (げんき) の概念がないため、ほとんどの場合で同一の測地系とみなして問題ありません。しかし、「日本測地系」や「日本測地系2000」のデータと重ね合わせた場合は、地域によって最大で 500m 程度のずれが生じるため、考慮が必要な場合があります。

データ自体に座標系が定義されていない場合、そのデータの座標値はマップの座標系に基づく座標値とみなされます。データとマップが同一の座標系である場合は正しい位置関係で重なりますが、異なる場合はより大きな問題として、顕著な位置ずれが生じます。

鉛直座標系の利用

日本測地系2011日本測地系2024 とでは、標高の計測方法が変更され、実際の標高値も変更になりました。この変換を行うには、国土地理院から公開されているジオイド データ (ジオイド2024 日本とその周辺) に基づくパラメーター変換が必要となります。

なお、基準点の変更値は一部の離島を除き最大で ±数十cm ですが、四捨五入されて 1m 変化する山頂もあります。データが標高値を扱う必要がない場合や、精度が 1m よりも大きい場合は誤差の範囲内とみなせるため、特段の操作は必要ありません。

「日本測地系2024」座標系の設定方法

水平座標系の変換

現在の所有しているデータを、日本測地系2024 として定義したい場合は、次の手順を操作してください。

  1. 投影情報ファイル (*.prj) 、変換ファイル (*.gtf) をダウンロードします。
  2. 各ファイルを所定の場所に配置します。
    • *.prj:任意の場所、([お気に入り] に表示されるように配置することもできます)
      • [インストール ドライブ]:\Users\[ユーザー名]\AppData\Local\ESRI\ArcGISPro\Favorites
    • *.gtf:以下の場所に配置
      • [インストール ドライブ]:\Users\[ユーザー名]\AppData\Roaming\Esri\ArcGISPro\ArcToolbox\CustomTransformations
  3. 次のパラメーターで [投影変換] ツールを実行します。
    • 入力データセット、またはフィーチャクラス:変換したいデータ
    • 出力データセット、またはフィーチャクラス:フィーチャクラスを保存するためのフルパスを指定
    • 出力座標系:GCS_JGD_2024 など (2.で取り込んだ *.prj を指定)
    • 地理座標系変換:入力データセットの測地系にあわせてパラメーターを指定

3. で指定した「シフト量は 0」の地理座標系変換パラメーターは、実質的に [投影法の定義] ツールで日本測地系2011 の定義を日本測地系2024 に上書きすることと同じ意味になります。

投影変換
[投影変換] ツールの実行例

ダウンロード

本記事で提供しているファイルの名称や数値などは、現時点では国土地理院から提供されるデータの名称と一致することは保証されておりません。今後変更される可能性があります。ご理解の上でご利用ください。

格納されているファイルは次のとおりです。

  • JGD 2024
    • 地理座標系
      • GCS_JGD_2024.prj ※地理座標系
    • 平面直角座標系
      • 平面直角座標系 第1~19系 (JGD 2024).prj ※19 種類
    • UTM 座標系
      • UTM 座標系 第51~56帯N (JGD 2024).prj ※6 種類
    • 鉛直座標系
      • VCS_JGD_2024.prj ※楕円体高
      • VCS_JGD2024_vertical_height.prj ※標高
    • 複合座標系
      • GCS_JGD_2024+VCS_JGD_2024.prj ※地理座標系と鉛直座標系 (楕円体高) の複合
      • GCS_JGD_2024+VCS_JGD2024_vertical_height.prj ※地理座標系と鉛直座標系 (標高) の複合
  • JGD 2024 Transformation
    • JGD_2011_To_JGD_2024_1_Null.gtf:
      日本測地系2011 と 日本測地系2024 の水平方向の座標をシフト (シフト量は 0)
    • JGD_2024_To_WGS_1984_1_Null.grf :
      日本測地系2024 と WGS84 との水平方向の座標をシフト (シフト量は 0)
    • JGD_2000_To_JGD_2024_NTv2_1.gtf:
      日本測地系2011=日本測地系2024 とみなして、直接日本測地系2000 から日本測地系2024 に水平方向の座標をシフト

今後の提供情報に関して

ArcGIS の対応については、情報が得られ次第、本記事を随時更新してご案内いたします。

また、本記事の内容は、2025 年 5 月 28 日から東京ミッドタウンで開催される、第 22 回 GISコミュニティフォーラムで専用のセッション (プレフォーラム本会 [短縮版]) を準備しております。ぜひご参加ください。ご参加いただければ、スタッフに直接ご質問もいただけます。

「日本測地系2024」や「測地成果2024」固有の内容や、「ジオイド2024 日本とその周辺」など、国土地理院から提供されるデータそのものに関するご質問は、国土地理院へお問い合わせいただきますようお願いいたします。

本記事に記載の内容は、免責に基づきます。

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