大学の卒業論文などで、GIS を使った主題図作成は珍しいものではなくなりました。ソフトウェアの導入や操作が簡単になり、授業や書籍も増えたことで、高性能な GIS ソフトウェアも手軽に使えるようになりました。しかし、GIS を単なるツールとして捉えて地図を作成すると、必要な設定が不足したり、誤った操作をしたりして、結果的に意図した情報が適切に伝えられない地図を作ることになってしまいます。
この記事では、主題図作成でよく間違われる注意点を 5 つ紹介します。
目次
地図が潰れている
「地図 (=マップ) が潰れる」という表現は、一般的に地図投影していないことを意味します。実際の地球は丸いので、正確に平面に表現することは不可能ですが、歪みのない表現にすることが望ましいです。
たとえば、千葉県を 2 つの地図投影法で表現してみます。左の図は、正方形図法と呼ばれるもので、緯度 1 度と経度 1 度が等しい距離で示されています。地理座標系のデータを最初にマップに追加すると、このような投影になります。右の図は、角度が正しい横メルカトル図法です。

ArcGIS Pro で 3D (シーン) を使って、千葉県を真下に見えるようにすると、次のような表現になります。比較すると、横メルカトル図法で表現した千葉県の方が、宇宙から見下ろした形に似ており、正方形図法は南北に潰れた形になっていることがわかります。

正方形図法は直角に交わる交差点が直角で示せない
別の例をご紹介します。札幌市の中心部は、碁盤目状の区画で区切られています。しかし、正方形図法では、道路や建物、区画が斜めの平行四辺形のような形になります。正方形図法は正確な形が示せていないことがわかります。これは、正方形図法の場合、高緯度ほど顕著になります。(狭い範囲において) 正確な形を示す場合は、正角図法を使います。

ポイント バッファーが円の形状にならない
正方形図法は、空間解析の結果にも誤解を与えてしまいます。最も基本的な空間解析として、バッファーがあります。次の図は、札幌駅の中心地 (ポイント) から、正確に半径 1km のバッファーを描いたポリゴンです。正確に 1km の半径を描いたならば、真円になるはずですが、正方形図法は地図が潰れているため、楕円のような形状となってしまいます。たとえ、ポリゴン自体は正確な半径の距離を示していても、地図としては不適切です。

地図は用途に応じて適切な地図投影法で投影する
適切な地図投影法は、用語や目的によって異なります。都道府県や市区町村の範囲であれば、横メルカトル図法が使われている、平面直角座標系や UTM 座標系を選択すればよいでしょう。基準の縮尺が適切であれば、Web メルカトル座標系でも問題ありません。しかし、地方図や日本地図、世界地図のような、小縮尺の地図になるほど、距離・面積・角度・方位がぞれぞれ歪みやすくなりますので、どの要素を最適に表現したいか、目的によって適切なものを選択してください。特に小縮尺地図で分布図を示すなら、正積図法を使うのが適切です。
- 市区町村・都道府県の範囲:横メルカトル図法(平面直角座標系、UTM座標系)、メルカトル図法(Webメルカトル座標系)
- 地方図の範囲:ランベルト正角円錐図法
- 日本全国:ランベルト正角円錐図法、アルベルス正積円錐図法、正距方位図法など
- 世界図:目的により異なる、分布図の場合は正積図法が望ましい




正規化されていない値で塗り分けしている
都道府県や市区町村のようなポリゴンに含まれている数値の属性情報を使って塗り分けた主題図をコロプレス図 (階級区分図) といい、統計地図では最もよく見られます。ArcGIS Pro では、等級色として設定できます。塗り分けで数値の大小を表現することは、大変わかりやすいですが、その表現方法には注意が必要です。たとえば、次の図は日本の市区町村の人口を示したコロプレス図です。

一見すると、中山間地域にあたる市町村は人口が少なく、県庁所在地を持つ市町村は人口が多いように見えます。しかし、上の図は日本の人口分布を表したコロプレス図として適切とはいえません。
次の図は、市区町村の人口密度を表したコロプレス図です。

こちらは、市区町村の人口を面積で割った人口密度 (人/km2) として示しています。この図だと、人口が都市部に一極集中していることがよくわかります。北海道も、札幌市に人口が集中しています。人口の分布は格差が非常に大きいことがよくわかります。
コロプレス図は正規化が必要
仮に、同じ密度で人が住んでいるとしたら、面積が大きくなるほど人口も多くなります。市区町村の面積は均一ではありませんから、面積が大きい市区町村ほど、人口は多くなる傾向にあります。これを是正するのが正規化です。正規化とは、情報の単位を扱いやすいものに整えることです。都道府県や市区町村のような行政界の面積は等しくなくて、面積が大きいほど値が大きくなる傾向にあります。そのため、行政界ごとのような区域の場合は、単位面積あたりの数値で示すのが適切です。
絶対数を示したいなら記号の大きさに置き換える
行政界のような、面積の異なる区域の情報を絶対数を示したい場合は、比例記号図を使います。これは、記号の大きさと値を比例させたもので、円の記号がよく使われます。ArcGIS Pro では、比例シンボルとして設定できます。

比例記号図で使われる代表的な記号は円ですが、半径を距離で設定しますので、マップは投影座標系にしてください。また、統計値をそのまま距離に当てはめると期待する大きさにならない場合がありますので、式の設定から係数を設定してください。
配色の印象が誤解を与えている
次は配色 (色の割り当て) についてです。次の図は、国勢調査 2025 年 (令和 7 年) 市区町村人口・世帯速報値に基づく、市区町村別人口増減率をコロプレス図で表現したものです。左の図は人口が増加しているほど青色で表現し、減少しているほど赤色で表現しています。右の図は、人口が増加しているほど赤で表現し、減少しているほど青で表現しています。同じデータを用いた地図ですが、印象が全く異なります。

日本はほとんどの地域で過疎化傾向にあるため、「人口増減率」という主題図であれば、一見して負の印象が受け取れるよう、青色がマイナス値を示した配色が自然であるため、右の図の方が適切です。
慣習に沿った色を使う
レイヤーのシンボルは、一般的にイメージされやすい慣習に従った配色を行うとよいです。たとえば、河川は水のイメージから水色、温度は高いほど赤く、低いほど青い、といった具合です。ArcGIS Pro は、既定値でランダムな配色を設定されますが、そのシンボルが、必ずしも地物や属性を表現するのに適した配色とは限りませんので、注意して下さい。
凡例の順序
日本の主題図で示す凡例は、大きい値を上部に配置する、逆ピラミッド型で表現するのが一般的なようです。ArcGIS は、米国のソフトウェアのため、既定値では、小さい値が上に表示されるようになっています。これは、[シンボル] ウィンドウで、[詳細] をクリックし、[シンボルの順序の反転] と [値を反転] で切り替えることができます。凡例の順序は、どちらが正解だと決めることはできませんが、基準を定めて統一すると読み手にとって見やすくなります。

※ArcGIS Pro 3.7 時点では、比例シンボルの順序は変更できません。
方位記号や縮尺記号の使用が適切ではない
マップの地図投影法が適切でなければ、方位記号や縮尺記号 (スケールバー) も適切にはなりません。近年は、ベースマップがメルカトル図法 (正確には Web メルカトル座標系) で定義されているため、正方形図法以外に、メルカトル図法もよく見られるようになりました。メルカトル図法は、赤道付近の表現は正確といえますが、極に近づくほど、面積の歪みが大きくなります。日本は中緯度に位置しているため、たとえば東京付近では、赤道上に比べて 1.2 倍ほど拡大されています。地図の南北端の拡大率の差が少なければ、地図そのものの表現として問題は有りませんが、縮尺記号をそのまま表示すると、誤った表現となります。
たとえば、次の図はメルカトル図法で作成した地図ですが、縮尺記号と、距離計測ツールの値が一致していません。距離計測ツールで測った距離は、航程線 (等角航路) 上の距離を示しています。縮尺記号を東京付近まで並行に移動させた長さを測っています。結果は 2,872km となっており、縮尺記号の 3,000km と一致しません。

大縮尺の地図 (狭い範囲を示した地図) であれば、メルカトル図法であっても方位記号は正しく示せます。しかし、縮尺記号は、正確な距離を示していません。
このような場合は、縮尺記号のプロパティにある [中心で計算] のチェックを有効化すれば、地図の中心の位置から、適切な基準縮尺を計算した表示になります。この設定は、市区町村や都道府県の範囲を示すような、大縮尺の地図では有効ですが、日本全図のような小縮尺地図では意味がありませんので注意してください。
縮尺によって方位記号や縮尺記号の使用を考える
地理学を学ばれた方は、「地図には、必ず凡例・方位記号・スケールバー (縮尺記号) を入れること」と習われたかもしれません。
この “必ず” という言葉が落とし穴で、注意が必要です。地図の4要素である、距離・面積・角度・方位をすべて正しく表現できる地図投影法 (図法) はありません。このうち、面積と角度に限っては、地図上のどこでも正しく表現できる図法はあるのですが、距離と方位を地図上のどこでも正しく表現できる図法はありません。正距方位図法という図法がありますが、これは、地図の “中心” と、任意の 2 地点間の距離と方位が正しいという意味です。大縮尺地図で、狭い範囲を示す場合は、この限りではありませんが、日本地図や世界地図のような、小縮尺地図の場合は、図上のどの場所でも距離と方位を一定に示すことはできません。
次の図をご覧ください。

この地図は一見すると適切に方位記号や縮尺記号を配置した地図に思えますが (この例は一般図なので凡例は記載していません) 、実際に示している情報には誤りがあります。
- 方位記号
- 南北の方向 (=子午線) は、経線と一致します。つまり、地図上で経線が並行に描かれない場合、方位記号の使用は妥当とはいえません。なお、方位記号には 2 方位と 4 方位以上のものがありますが、円筒図法であれば、2 方位の記号が使えます。東西の方向 (=卯酉線) は、緯線と一致するわけではないので注意してください。
- 縮尺記号
- この地図のように、日本全体を示した小縮尺地図で縮尺記号を表示することは適切ではありません。ArcGIS では投影座標系の定義に基づいて表示されますが、地図上のいずれの場所でも距離が正しいとはいえないためです。縮尺記号は、誤差が許容できる範囲で使うようにしてください。
ArcGIS Pro は、簡単な操作で方位記号や縮尺記号が追加でき、これは地図投影法のパラメーターにしたがって表示しているに過ぎません。上の図であれば、東経 135 度上の南北の方向を基準に方位記号を設定しており、縮尺記号についても、北緯 33 度と 44 度の間の緯度が基準に設定されています。特に小縮尺地図では、地図上のどこでも方位や距離が正しく表示されている訳ではないことに注意が必要です。
レイヤーや凡例の文字が適切ではない
さいごに、凡例の見た目に関する注意点です。シェープファイルのような、エイリアスがないフィーチャクラスをマップに追加すると、ファイル名がレイヤー名として表示されます。ジオプロセシングで空間解析処理を行なった場合も同様に、フィーチャクラスの名前がそのままレイヤーの名前となってしまいます。これでは地図の読み手が理解できませんので、レイヤーの名前や、凡例の数値はわかりやすく表現するように考慮しましょう。
こちらの記事も参考にしてください。
まとめ
今回は、主題図の作成において気をつけたいポイントの一部をご紹介しました。GIS は、より便利で手軽に使えるようになりました。GIS は、地図を作成するためのツールですが、ツールを使えば正しい結果が得られる訳ではなく、適切な意思決定を行うための地図作成には、適切な基礎知識が必要です。今回は、初歩的なミスとしてよく見られるポイントを紹介しました。
ArcGIS にも AI が組み込まれてはじめていますが、現時点では、まだ不適切な主題図を自動的に修正してくれる機能は備わっていないため、正しい理解に基づいた判断が必要です。
参考文献
地図や主題図に関する参考文献は、以下のページでも紹介しています。ご参考下さい。

