ArcGIS Engine からの移行について

本記事では、2026 年 3 月 1 日にサポート終了が予定されています ArcGIS Engine の内容について、米国 Esri 社 ArcGIS Blog の「Migrating from ArcGIS Engine」を翻訳してご紹介します。

ArcGIS Engine は、カスタム GIS デスクトップ アプリケーションの構築とデプロイのために 20 年以上前に発売されましたが、2026 年 3 月 1 日にサポートが終了します。この記事では、ArcGIS Engine アプリから新世代の ArcGIS 開発者製品への移行に特化したシリーズの第 1 回目として、リタイアの詳細、ArcGIS Engine のリタイアが間近に迫っていること、移行を計画するための戦略、および ArcGIS Maps SDKs for Native Apps を活用した主要な移行ルートの 1 つを紹介します。

リタイア

ArcGIS Engine 10.8.2 は、現在の最終リリースであり、2026 年 3 月 1 日までサポートされます。リタイアには、開発者がカスタム アプリを構築するために使用する ArcGIS Engine Developer Kit と、カスタム アプリをエンド ユーザーのマシン上で実行できるようにする ArcGIS Engine の両方が含まれます。ArcGIS Engine でアプリを構築するために .NET または Java を使用していた場合には、ArcObjects SDK for Microsoft .NET Framework または ArcObjects SDK for Java がインストールされています。これらの SDK は、ArcGIS Engine とともに使用される場合、同じ製品ライフサイクルに従い、2026 年 3 月 1 日にサポート終了します。ArcGIS Enterprise 10.9.1 の開発専用にリリースされた ArcObjects SDK の新しいバージョンは、ArcGIS Engine の 1 年後の 2027 年 12 月にサポートが終了します。

2026 年 3 月 1 日以降もカスタム アプリケーションは動作し、エンド ユーザーが直ちに影響を受ける可能性は低いでしょう。ほとんどの ArcGIS Engine エンド ユーザーは永続ライセンスを持っており、ArcGIS Engine ベースの機能を引き続き使用できます。しかし、2024 年 2 月の延長フェーズの終了に伴い、ソフトウェア アップデートとパッチはすでに停止しています。時間の経過とともに、ユーザーは IT 環境におけるセキュリティーの脆弱性や互換性の問題などの問題に直面する可能性があります。また、最新の ArcGIS ワークフローや機能を利用できなくなります。

移行の計画

ArcGIS では、開発者の皆様に新世代の ArcGIS 開発者製品への移行をお勧めしています。移行には、ArcGIS Desktop、Engine、および Server という従来の環境から ArcGIS OnlineArcGIS Location PlatformArcGIS Enterprise、および ArcGIS Pro という最新のエコシステムへの移行が含まれます。移行には開発工数がかかりますが、GIS テクノロジーの最新機能と性能を活用するチャンスです。

移行戦略には慎重な計画が必要です。今のところは、古いアーキテクチャを維持し、個々のコンポーネントを更新して最新化を図る方が、簡単かもしれません。しかし、過去 10 年間で、ソフトウェアと IT の状況は大きく変化し、今後もますます早いペースで変化し続けています。ハードウェア、ソフトウェア、デバイス、セキュリティー、ユーザーの期待のすべてが変化しています。戦略は、現在および将来のユーザー、ビジネス、システムの要件から始める必要があります。ユーザーはどのような環境にいるのか? ユーザーはどのような環境でどのようにアプリケーションにアクセスしたいのか? どのようなデバイスを使用するのか? ユーザーにどのような全体的なエクスペリエンスをしてもらいたいか?

ArcGIS では、お客様の要件を満たし、それを上回る成果を上げるために、カスタム アプリケーションの構築、ArcGIS ソフトウェアの拡張、ワークフローの自動化のための SDK、API、ツール、フレームワークを幅広く提供しています。また、ArcGIS は、Web、モバイル、デスクトップの各プラットフォームに対応し、オフィスでも現場でも使用できる、設定可能ですぐに使用できるアプリケーションも提供しています。

要件分析で得られた答えは、どのオプションを評価すべきかの判断に役立ちます。

SDK の選択

ネイティブ アプリ テクノロジーを継続する予定のほとんどの ArcGIS Engine 開発者にとって、自然な移行経路は ArcGIS Maps SDKs for Native Apps(Native Maps SDKs とも呼ばれる)でしょう。これらの SDK は、最新のデバイス向けのアプリケーションを構築する際の ArcGIS Engine の課題と制限に対処するために、一から意図的に設計および構築されており、開発者は次のことが可能になります。

  • 開発者の生産性と完全なワークフローを重視した、開発者に優しい設計を体験できます。
  • .NET、Kotlin、Flutter、Qt、および Swift 用の Native Maps SDKs により、最も一般的な開発フレームワークから選択できます。
  • ベクター タイル ベースマップなどの高性能なレイヤー タイプを含む、最新の ArcGIS 機能にアクセスできます。
  • オンライン環境とオフライン環境の両方でのシームレスな作業をサポートする API により、接続性に関係なく一貫した機能とパフォーマンスを提供します。
  • 64 ビット コンピューティング アーキテクチャー(ARM64、Apple Silicon、x64)、Android、iOS、Linux、macOS、Windows をサポートし、最も一般的なオペレーティング システムとデバイスに展開します。
  • メンテナンスと管理を簡素化し、互換性問題のリスクを低減します。自己完結型で同じデバイス上で並行して実行できる、フットプリントが小さく軽量なアプリケーションのデプロイメントが可能です。

Native Maps SDKs の中で ArcGIS Engine に最も近い選択肢は、Windows でのデスクトップ アプリケーションの構築をサポートする ArcGIS Maps SDK for .NET と、Linux および Windows でのデスクトップ アプリケーションの構築をサポートする ArcGIS Maps SDK for Qt(国内未サポート)です。これらの SDK は、デスクトップ オペレーティング システムに加え、Android、iOS、macOS もサポートしており、モバイル プラットフォームやその他のデスクトップ プラットフォームをターゲットにする可能性があります。ニーズによっては、Android 開発向けに設計された ArcGIS Maps SDK for Kotlin や、iOS 向けに設計された ArcGIS Maps SDK for Swift もご検討ください。さらに、新しい ArcGIS Maps SDK for Flutter は Android と iOS の両方にクロスプラットフォームで対応していますが、Native Maps SDKs のすべての機能は、まだ含まれていません。詳細は Flutter Maps SDK parity をご確認ください。

アプリの移行

ArcGIS Engine から Native Maps SDKs への移行には、アプリケーション ロジックの再設計と再実装が必要です。2D マップや 3D シーン、レイヤー タイプ、ジオデータベース、ジオコーディング、ネットワーク解析など、多くの概念は変わりません。しかし、GIS コンテンツの作成、メンテナンス、公開のワークフローは進化しています。Native Maps SDKs を使用して、データから直接、ゼロからマップやシーンを作成することもできますが、コンテンツの公開には ArcGIS Pro や Web ベースの Map Viewer、Scene Viewer、ホスティングには ArcGIS Enterprise や ArcGIS Online を利用できます。また、マッピングやロケーション サービスの要件によっては、ArcGIS Location Platform の消費ベースのビジネス モデルの方が適している場合もあります。このシリーズの次回の記事では、データ アクセス、マップ解析、マップ表示、および開発者コンポーネントの移行を計画および実行できるように、ArcGIS Engine ベースのアプリケーションの各領域について、詳細な移行オプションを検討します。

新しいテクノロジーへの移行は、アプリケーションの一部を再構築し、同時に蓄積された技術的負債を解決する機会でもあります。対処すべき一般的な側面は、.NET Framework から新しい .NET ランタイムへの移行など、基礎となるプラットフォーム API の更新や、ユーザー インターフェース(UI)ロジックからビジネス ロジックとプレゼンテーション ロジックをより分離するための MVVM などのデザイン パターンの採用です。このような変更により、より堅牢なコードをより高いパフォーマンスで記述できるようになり、アプリケーションのテスト、保守、進化が容易になります。開発者の中には、アプリケーション ロジックと ArcGIS Engine API の間に抽象化レイヤーを作成することで、Native Maps SDKs の機能との段階的な置き換えを容易にし、ユーザー受け入れテストやコンプライアンス テスト中のデュアル ランニングをサポートすることを選択する人もいます。

追記

ArcGIS Engine からいずれかの Native Maps SDKs への移行を検討する場合、2 つの関連するリタイア事項があることに注意する必要があります。

ArcGIS Maps SDK for Java のリタイア

ArcGIS Maps SDK for Java は 2024 年 3 月 6 日に非推奨となり、最後のバージョン(200.6)は 2024 年 11 月 25 日にリリースされました。10 年以上前に ArcGIS Runtime SDK for Java がリリースされ、2022 年 12 月に ArcGIS Maps SDK for Java と改名されて以来、ArcGIS Maps SDK for Java で使用されている Java FX フレームワークのデスクトップ クライアント アプリケーション開発への人気と使用は徐々に低下しています。デスクトップおよびクロス プラットフォームを構築するための代替 SDK として、ArcGIS Maps SDK for .NETArcGIS Maps SDK for Qt(国内未サポート)、ArcGIS Maps SDK for Flutter、およびプラットフォーム固有の SDK として ArcGIS Maps SDK for KotlinArcGIS Maps SDK for Swift があります。詳細については、Esri サポートの記事「Deprecation: ArcGIS Maps SDK for Java」を参照してください。

ArcGIS Maps SDK for Local Server のリタイア

ArcGIS Maps SDK for Local Server(Local Server)は、2030 年にサポートを終了します。Local Server の最後のリリースは、2025 年第 3 四半期の ArcGIS Maps SDK for Local Server 200.8 です。Local Server の機能のほとんどが Native Maps SDKs で直接利用できるようになったため、Local Server はリタイアされます。Native Maps SDKs で直接利用可能な機能を利用することで、より広範な開発フレームワークやデプロイメント プラットフォームにアクセスできるなど、複数の利点が得られます。詳細については、ESRIジャパン サポート「サポート終了情報: ArcGIS Maps SDK for Local Server」を参照してください。

まとめ

ArcGIS Engine アプリケーションから新世代の ArcGIS 開発者製品への移行に特化したこのシリーズの最初の記事では、ArcGIS Engine のリタイアの状況を確認し、移行を計画するため幾つかの戦略を共有し、主要な移行パスの 1 つである Native Maps SDKs の活用について紹介しました。ArcGIS Engine からの移行に関するさらなる情報をご期待ください!

また、ArcGIS Engine のサポートおよび、ArcGIS Engine からの移行に関する情報について、併せて「ArcGIS Engine のサポートについて」をご確認ください。

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