※本記事は米国 Esri 社のブログ記事「Mapping coronavirus coxcombs」を翻訳・抜粋したものです。
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) について、さまざまな表現手法や解析方法で新型コロナウイルス感染症の状況を把握するマップが公開されていますが、その多くは現時点のデータを表現しているものです。
感染者数が昨日と比べて今日はどれくらい増加したか、ある国の流行パターンは、現在感染が拡大している国と類似しているのかなど、データの時系列的変化を同じ一つのマップ上で表現したい場合に有効な「コックスコーム チャート」をご紹介します。
コックスコーム チャートとは?
コックスコーム チャートとは円グラフのバリエーションのひとつです。
下図は 1858 年にフローレンス・ナイチンゲールによって作成された軍隊の死亡率に関するチャートです。
このチャートでは時計回りに 1 月~ 12 月の 12 のセルに分割されており、円の半径はそれぞれの月の死亡率のデータを表しています。
コックスコーム チャートを用いることで、データが時間とともにどのように増加・減少するか、さらにさまざまなサブカテゴリもどのように変化するかを把握することができます。
コックスコーム チャートを使用した新型コロナウイルス感染症のマッピング
ジョンズ・ホプキンス大学のダッシュボードにて公開されている CSV ファイルと、ArcGIS Pro 用の Coxcomb ツールをダウンロードし、ArcGIS Pro のプロジェクトに追加します。
一般的なマッピング プロジェクトと同様に、最初のタスクはデータを取り込むことです。CSV ファイルから [XY テーブル → ポイント] ツールを使用して、ポイント フィーチャクラスを作成します。次にデータの属性テーブルを確認します。今回は、国ごとに 1 つのコックスコーム チャートを作成したいので、「Country」フィールドを使用して識別します。
コックスコーム チャートのそれぞれのセグメントは、データ内の個別のフィールドから計算されます。コックスコームを正しい順序で作成するには、フィールドが正しい日付の順序になっていることが重要です。必要に応じて、[フィールド] ビューでフィールドを並べ替えてください。
また、コックスコーム チャートを作成する前に、マップが適切な投影法に設定されているかを確認してください。Coxcomb ツールは円形のチャートを作成するため、正積図法に設定すべきです。作成後にマップの投影法を変更すると、チャートが投影変換され歪んで描画される場合があります。
続いて、[Coxcomb construction] ツールを実行します。下記はツールの実行例です。
Input Features: 時系列データを含むポイント フィーチャクラス。今回は 1 月 22 日から 3 月 18 日までの感染確認件数のポイント フィーチャクラスを設定します。
Output Features: 出力コックスコーム ポリゴン フィーチャクラス
Coxcomb Group ID: コックスコーム チャートを構築するために使用するフィールドです。各コックスコーム チャートの中心点も形成されます。
Coxcomb Scale Value: 作成するコックスコーム チャートの半径の最大サイズを入力します。
Scale Value Units: Coxcomb Scale Value に入力したスケール値の単位を選択します。今回は「半径が最大 1000 km」のコックスコーム チャートを作成します。
ツールを実行すると、下図のように入力フィーチャクラスのポイントを中心にして、コックスコーム チャートが 57 のセグメントごとに個別のフィーチャとして作成されます。今回の例では、最大データ値は 3 月 18 日に中国で確認された約 81,000 件で、このセグメントのマップ上の半径は 1000 km です。
加えて、同期間の新規感染確認件数、回復件数、死亡件数のコックスコーム チャートも作成しました。個々のコックスコーム チャートを設定する方法は 2 つあります。まず単純に積み重ねることができます。ただしここでの仮定として、マップの読者はセグメントが積み重なっており、小さなセグメントがその下の大きなセグメントの一部を覆い隠して見えなくなる問題点を理解できることです。
もう 1 つの方法は、各セグメントの相対的な領域が、構成する変数の正しい比率で満たされるようにすることです。以下の中国のコックスコーム チャートでは、それぞれのセグメントの面積が等しい 4 つの変数を示しています。
コックスコーム チャートの全体のサイズは比例シンボルで、これにより国ごとの感染者数を比較することができます。チャートの後ろにある中空の塗りつぶしと灰色の輪郭のフィーチャは、これまでに確認された全件数を示す比例シンボル レイヤーです。
チャート内の 57 個のセグメントは、それぞれ上から時計回りに 1 月 22 日から 3 月 22 日を示しています。各セグメントの合計の領域は確認された症例数を示しており、新規感染確認件数、回復件数、死亡件数の 4 つのカテゴリに色で分けられています。
各コックスコーム チャートには多くの情報が詰め込まれており、同じビューの中でもコロプレス マップ、比例シンボル、またはアニメーション マップよりも多くの情報を提供することができます。このコックスコーム チャートでは、コックスコームごとに 229 個の情報があります。
コックスコーム チャートで表現できるもの、できないもの
コックスコーム チャートを使用した新型コロナウイルス感染症のマッピングには、他の表現を用いたマップと同様に利点と欠点があります。以下にコックスコーム チャートで表現できるもの、できないものを要約します。
表現できるもの:
・ある国全体で集計された、ある期間の症例数の要約
・新型コロナウイルスの蔓延にともなう発症とその上昇のパターン
・新たな 1 日の症例数が減少し始める時点
・回復した患者数が時間とともにどのように増加するか
・死亡者数が増え続けているのか、減少しているのか
・各国間の感染確認開始のタイムラグ
表現できないもの:
・データの自動更新
・個人のリスク
・死亡率
・新型コロナウイルスの空間的拡散経路
・自身の健康と安全のためのアドバイス
コックスコーム チャートを使用したマップの共有
最後に、作成したコックスコーム チャートのマップを共有します。コックスコーム チャートはフィーチャクラスであるため、ArcGIS Pro からフィーチャ レイヤーとして共有するだけです。以下は最終成果のマップです。
フルスクリーン用の URL はこちら。
このマップでは、Web マップにベースマップとして John Nelson 氏が作成した Equal Earth world ベクター ベースマップを追加し、コックスコーム チャートのフィーチャ レイヤーを追加した後にいくつかのラベルとポップアップの構成をしています。
まとめ
コックスコーム チャートは、複数の情報をシンボルにエンコードするという簡潔で洗練された方法を提供し、コロプレスや比例シンボルなどの単変量手法では難しい表現を行うことができます。このため、一目でウイルスの発生と拡大を時系列で確認ができ、新型コロナウイルスに関するデータのマッピングに役立てることができます。
新型コロナウイルスの進行とそれに関連する人口数の内訳を示すことで、国内の人口レベルでウイルスがどのように進行しているかの調査を支援することができます。また、さまざまな国の状況を把握することができ、病気のさまざまな段階で比較することができます。最後に、新型コロナウイルスの発生が異なる場所で実施されるさまざまな検査・治療および社会政策をどのように探すかの研究に役立つ可能性があります。
マップは答えを教えてくれることはありませんが、私たちの新型コロナウイルスに対する更なる問いかけの助けになります。
謝辞:
本ツールとブログ記事を支援してくれた Linda Beale、John Nelson、Craig Williams に感謝します。
※本記事で紹介されている内容および Coxcomb ツールについてのお問い合わせは、提供者に直接お問い合わせください。
(参考情報) 国内の感染状況データを使用したマッピング
ESRIジャパンでは、4 月 14 日に「新型コロナウイルス対応支援サイト」を公開しました。このサイトでは、新型コロナウイルス感染症への対応を支援するための国内・世界の感染状況に関する情報、データ、対応支援パッケージを提供しています。
本ページでは、国外および国内の感染状況データを公開していますが、「全期間・状態別感染者数(都道府県別)」データをもとに、日本国内の感染状況を ArcGIS Pro でコックスコーム チャートを使用してマッピングしました。
※画像は 2020 年 3 月 18 日 ~ 5 月 7 日の感染状況です。
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