(※本記事は米国 Esri 社のブログ記事「Modernization of Utilities and the Supporting Role of GIS」をESRIジャパン株式会社にて翻訳したものに、一部加筆・変更したものです。)
ユーティリティの近代化は世界中に広がっています。送配電事業は規制や社会的潮流によって新たな手法や技術に移行が進んでおり、これはすべての事業で多くの国に見られる傾向です。例えば、炭化水素燃料の発電所は排出量の削減・回収のための改善されたシステムを導入しています。また、太陽光、風力、改善された水力施設(ポンプ場など)のような最新の再生可能発電の占める割合が高まっています。さらに系統運用者はテレメトリ デバイスによってサービス中断時の迅速な対応と顧客サービス向上のための遠隔制御を可能にしています。このようなシステムの例としては、SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)やAMI(Advanced Metering Instrument)などがあります。
新たな手法やシステムの多くは空間的な要素が強く、そのような手法やシステムによって、新しい送電線や発電所や変電所を保守・建設するエンジニアは、地域環境への影響をより深く理解できます。また、地理空間技術により、ルーティングを担当するエンジニア、中心線を特定する測量技師、施設の建設を担当するエンジニアの間でより良い連携を図ることができます。現場作業員はリモート マッピング ツールを利用することで、メンテナンスのために適切な機材を用意したり、環境的に影響を受けやすい地域に対応することができます。顧客サービス チームはトラブルや問い合わせの際に最適なルーティングを行うために改良された技術を活用し、地域社会とのより深い関係を築きます。事業開発チームは地域社会の持続可能な成長のためのインセンティブを提供するために、組織全体からの情報を活用します。このような変化を管理するために、公益企業は情報がローカルに確保されるシステムから、情報管理について企業的アプローチに移行しました。公益企業がどのように移行を進めているかの好例は、The Fourth Industrial Revolution Empowered by End-to-End Electric Power Systemでご覧いただけます。
テクノロジーの変化への対応
多くの場合、公益企業は事業内容に応じて、さまざまなデータベースや専用のプラットフォームで設備を管理しています。これらの設備には、それぞれのテーブル内に含まれる空間的要素またはコンポーネントがあります。例えば、架空送電線系統、電柱、発電所、保護装置はすべて正確な地理的位置データを持っています。データ サイエンティストは地理情報システム(GIS)チームを活用して、エンジニアをサポートするためのユーザー重視のソリューションを分析、視覚化、管理しています。また、GIS 技術はAMIやSCADAを含むテレメトリなどのビッグ データ システムを使用する上で典型的な技術です。テレメトリ データの例としては、経時的なシステム変化を追跡するリモート メーターやデバイスがあります。系統運用者はジオ エンリッチメント(注1)により、大量のテレメトリ データから系統のコンテキスト、トレンド、パターンを分析に生かすことができます。ジオ エンリッチメントを運用者と現場作業員のための系統データに統合することで、レスポンスと信頼性を向上させる技術基盤を作り出しました。
地理空間ソリューションによって運用上の対応が改善されれば、新しい設備の設計やルーティングにとって大きな変革を生むと考えられます。地形や地勢は新しい設備の設置や環境負荷の削減において重要な役割を果たします。また、湿地帯のような環境的に影響を受けやすい場所や、墓地のような文化的に影響を受けやすい地域を把握するための強力なツールでもあります。GISは巡視点検や信頼性プログラムを通じて設備管理を支援してきた長い歴史があり、このようなユーティリティの近代化には様々な種類があります。 例えば、EAM(Enterprise Asset Management)のほとんどの形態には、保守技術者による迅速な対応と修復のための空間情報が含まれています。ロジスティクスとリソースに関して言えば、ERP(Enterprise Resource Planning)ツールは空間情報を使用して大幅に強化されています。ArcGIS Living Atlas of the WorldやAmerican Community Survey の人口統計など、利用可能なGISデータを統合することで、上記のすべての可能性が広がります。
現代企業におけるユーティリティGIS
データとシステムのROIを向上させる
ユーティリティと情報科学の近代化には様々な形があります。例えば、データの取得は、エンジニアリングの中で最も資源とコストがかかる要素のひとつです。設備の航空画像は、新規建設、環境への負荷軽減、土地管理のための情報と背景を提供することができますが、現在の画像と過去の画像の両方を提供し管理することは非常に困難です。ArcGIS Image Server for ArcGIS Enterprise (注2)は組織全体をサポートするための次世代の画像管理を可能にします。高精度な測量およびLIDAR 標高データについては、ArcGIS Proが高密度な標高データの豊富なユーザーエクスペリエンスを提供します。中心線、基準点、オフセットの測量データの利用は従来、測量チームに限られていましたが、ArcGIS Proのリニアリファレンス ツールを使用すると、測量データを管理部門と共有できます。これらのツールを使い、ビジネス全体で共有することにより、コストのかかるデータのROI(投資収益率)を向上させます。
設備管理は、ROIを向上させる重要な機会の一つです。設備の信頼性に関する空間的な傾向とパターンをより深く理解することは、処方的メンテナンスにつながります。需要家の負荷と設備の故障パターンを可視化することで、設備のライフサイクルとメンテナンス プログラムをより正確に実行することができます。用地や調査経路をより正確に管理し、地理空間的に充実したエンジニアリング データに基づいて指示することができます。 ArcGIS Parcel Fabric(注3)をユーティリティ設備と連携して使用することで、都市環境における土地取得コストを削減するための高精度な用地データを得ることができます。
最新のAMIにより、公益企業は電力使用量や運用データの傾向を把握しています。この情報は、系統の信頼性を測り、使用状況や顧客の行動に基づいて電力品質を最適化するために利用されます。また、この電力使用データの傾向は、顧客インセンティブの促進、改善に重点を置いた設備管理コストの削減、地域環境への影響を最小限に抑えた設備の新設などに活用することができます。さらに、これらの情報を人口統計やソーシャル メディア フィードなどのオープン ソース データと統合すれば、事業チームや地域開発チームにとって強力なツールとなります。情報システムはこのような豊富なデータすべてを活用して、顧客との関わりや運営実績の傾向をより深く理解することができます。より深い理解を得ることで、エンジニアは新しいインフラの拡大に集中し、新設に伴う環境負荷を削減し、顧客のために持続可能な都市を支援することができます。
ユーティリティの近代化
ユーティリティの近代化は、豊富なデータ、強力なユーザー重視のGISと業務情報システム、環境緩和への強い関心の拡大によって実証されます。スマートで持続可能な地域社会を目指す規制や社会的な潮流により、エンジニアは意思決定のための情報の利用度を高めなければなりません。ArcGIS Enterpriseは、豊富なスマート マップ、アプリケーション、および豊富なデータをユーザーに伝える方法を提供します。ユーティリティにおける情報のサイロ化の解消とコラボレーション環境は、業種を問わず、ユーティリティの推進力に好影響をもたらします。安全性、信頼性、およびカスタマー エクスペリエンスの向上はすべて、より深く、より高性能なレベルの運用および情報データ システムを共有することによってもたらされます。
注1:ジオ エンリッチメントとは、地理情報を用いて特定の範囲内の人、場所、ビジネスに関する情報を取得する機能。
注2:ArcGIS Image Server for ArcGIS Enterpriseの国内サポートはWindows ServerのみでRedhat、Ubuntu、SUSE、Oracle Linuxには対応していません。
注3:ArcGIS Parcel Fabricの国内サポートは開始していません。